目次
2015年の教育業界を振り返ろう
年の暮れも近づき、2015年の教育業界がどうだったか振り返る時間を取ろうと思い、この記事を書いています。2015年とはなんだったのか? 一言で言えば、オンラインサービス分野に大手が本格参入してきた年だと思っています。どんな業界でも、ベンチャーが新規性のあるサービスを始め(というよりそれがベンチャーの価値ですね)、それにある程度ニーズが確認されて、ビジネスモデルが見えつつあると大手が大資本で参入する、というのがビジネスの世界の常なのですが、同じことが教育業界でも起こりました。
私はEdtech(Education×Technology、テクノロジーを活用した教育のこと)は日本では3年前の2012年9月15日EdTech JAPAN Pitch Festival Vol.1から始まったという説を取っています。というより、私自身このイベントの登壇依頼をいただいた時に初めて「Edtech」という言葉を聞きました。
これが登壇者一覧です。
うーん、この2012年9月のときはみんなほぼ無名だったと思うのですが、今振り返ると顔ぶれがすごいですね。。Life is Tech!にschooにスタプラですよ。EdTech JAPAN Pitch Festival の1回目で、この面々に声をかけた主催者の見る目がすごいということだと思うのですが、本当にすごい。
そんなすごい感じなのですが、あくまでEdtechという分野の話でありまして、教育業界全体からすると有料会員数を数十万人単位で抱えているわけでもないので、メインストリームからは外れていると私は思っています。ただ、中高生にスマホはほぼ100%普及しているし、デジタルネイティヴ世代だし、テクノロジーを活用した新しいサービスが作れそうだし、2020年までにすべての学校で1人1台のタブレット端末が導入されるしで、今後伸びそうな可能性があると見込まれて多くの方に応援していただいていると思っています。
そして3年経った2015年ですが、詳しくはEdtech MediaのKDDI、ソフトバンク、ベネッセ、リクルート、楽天も!EdTech関連市場 大企業提携マップに譲りますが、大手が次々に本格参入しています。一応私も教育業界の人間として、新しいサービスが出たら必ず自分で触ってみるのですが、Edtechベンチャーが2012年ぐらいから運営しているサービスの良いところ悪いところをよく研究している(気がする)し、新しいアイディアも入っていて、一言でいえばちゃんとしているなあと思います。やっぱり、3年ぐらい経つと、先行していても必ず追いつかれる。
学習サービスの4つの価値の源泉
ただ、すべてのオンラインサービスに言えることなのですが、何か足りない気がいつもしています。学習者の立場にたったときに、スクールに通学する以外の方法での学習にイマイチ感を感じる。それがなんなのか、ずっと考えていたのですが、やっと分かりました。表にまとめます。
「提供しているもの」が、その学習サービスの価値の源泉です。価値があるからユーザーがお金を払って使ってくれると思うのですが、どんな価値に学習者がお金を払っているかというと、主に4つに集約されると思っています。
1. コンテンツ・カリキュラム
学習コンテンツや、その学習コンテンツを体系立てたカリキュラム。知識や技能を伝達したり、思考力や創造力を育ててもらうための教材ですね。
2. 先生
学習コンテンツを使って学習内容を教えたり、生徒のモチベーションを上げたりするのが先生です。ティーチングとコーチングの両方を行ってくれます。
3. 仲間
同じ教室にいる学習仲間です。学習仲間の発言内容から学んだり、友達の学習量や成績を見て刺激を受けることができます。
4. 場所
勉強する場所です。ほとんどの人は自宅で勉強する気にならないと思いますが、教室に行けば嫌でも勉強する環境があります。
4つの価値の源泉をどれだけ提供できているか
価値の源泉と、学習サービスのカテゴリを表にしてみると、学習サービスごとに提供できている価値が異なることが分かります。当然、4つの価値のうち提供できているものが多いほど、価値が高いサービスということになります。現状では、学校と塾・予備校が最も価値を提供できているので、ユーザーに最も支持されている=有料会員数が最も多い、ということだと思っています。それでは、学校と塾・予備校以外のカテゴリの学習サービスには何が足りないのでしょうか?
個別指導・家庭教師の本質
集団授業で一方的に授業が進むとついていけないこともありますが、個別指導や家庭教師であれば個別学習なので、学習進度や理解度に合ったカスタマイズされた授業を受けられます。ただ、コンテンツやカリキュラムが整っていなかったり、先生によって教え方やスキルに差があることが多いため、その場しのぎの学習内容になりがちだったり、他の生徒からの刺激がないところがデメリットといえます。よって、コンテンツと仲間を×にしています。
通信教育の本質
通信教育の形体は様々で、紙の冊子、映像コンテンツ、eラーニングなどがありますが、先生が実際にその場でいるわけではないため、先生からの刺激やプレッシャーがどうしても通学型スクールよりも少なくなってしまいます。また、自主学習はかなりモチベーションが高く、自分でスケジューリングができる学習者でもない限り、学習仲間がおらず1人で進めるのが難しいです。さらに、学習場所が月謝の対価として提供されていないと、自宅で勉強をコツコツ続けるのも辛い。よって、先生は△、仲間と場所は×にしています。
スカイプ英会話の本質
さて、我らのスカイプ英会話ですが、これはほぼ通信教育と同じですね。ただ1つ違うのは、先生が常に稼働しています。人が相手をしてくれるから、モチベーションを上げてもらえたり、アウトプットに対するフィードバックをもらえます。英語で例えると分かりやすいのですが、動画学習サービスを見て英会話の学習ができるでしょうか? 学習できるのは文法や単語、長文読解のテクニックなどインプットに限られます。一方、スカイプ英会話では外国人と電話で話すことになるためアウトプットの学習ができます。よって、通信教育と異なり、先生を○としています。
ここまでの話をまとめると、オンラインサービスはカテゴリでいうと通信教育やスカイプ英会話にあたるのですが、先生が△になったり仲間と場所が×になってしまう。これが学習者の立場にたったときに、スクールに通学する以外の方法での学習にイマイチ感を感じる原因だと考えています。
なぜコンテンツが無料に近づくのか、なぜコンテンツが無料に近づいても大半のユーザーはオンラインで勉強しないのか
これまで教室で先生が教えていたり紙で教材を送っていたものが、ITの発展によりオンラインサービスが普及してくると、先生の講義や教材がオンラインで見られるようになりました。となると、1つコンテンツを作ればそれを多くの学習者にオンラインで届けられるようになります。毎回先生が稼働するわけでもないし、紙の印刷費もかからないことからサービスの制作費を抑えられるため、コンテンツが無料に近づいてきています。
それでも、なぜオンラインで学習する人がそれほど増えないのか? もうお分りですね。どれだけ質の高いコンテンツがあったとしても、どれだけ自分に最適化されたコンテンツが送られてきたとしても、先生や仲間や場所がないとやらないからです。ここを理解してうまくサービスを組み立てたのが、東進の衛星予備校だと思っています。「コンテンツ」は、トップクラスの予備校講師の講義が見られます。「先生」は、ときどき映像授業の先生と会えたり、大学生の先輩がモチベーションを上げてくれます。「場所」は、いうまでもなく自宅でもできるのですが、サテライト校に通っている生徒が大半でしょう。サテライト校ではしょっちゅう「仲間」と顔を合わせます。コンテンツ、先生、仲間、場所の全てが揃っている東進の衛星予備校には、オンラインサービスに感じるようなイマイチ感がありません。
学習サービスの将来予測
以上を踏まえると、今後5年10年スパンで、下記のような流れが起こると考えています。
- 学校、塾・予備校の集団授業、一斉授業のデメリットは、個別最適化しやすいオンラインサービスを教育現場で活用することで解決される。さらに人工知能の発達により、個別指導のスキルは人よりも機械の方が上になる。よって、学校、塾・予備校と個別指導の境目がなくなっていく
- 通信教育(紙・映像授業・eラーニング)やスカイプ英会話は学校、塾・予備校で活用されることで爆発的に普及する。自主学習で自分の家で勉強できる学習者は引き続きモチベーションの高いユーザーのみとなる
- 英語だけの話をするなら、4技能試験の普及により、スピーキングやライティングのアウトプットとそのフィードバックシステムが必要になる。そのために、ICTを活用して海外の先生と学習者を繋がなければ、先生の数の確保の観点からも、先生の人件費の観点からも4技能を教える体制を構築できない
逆に言えば、コンテンツ・先生・仲間・場所の4つの価値の源泉を提供できる形を教育サービスの会社は考えるべきであり、オンライン英会話ベストティーチャーは下記のように2016年以降進化していきたいと考えています。
- 人工知能を活用したサービスの開発に着手。インプット教材と学習スタイルの提案を、極限までパーソナライズさせた形で行う
- 学校、塾・予備校、英会話スクールなど先生・仲間・場所が揃っている教室で、ベストティーチャーを受講できるようにする
人工知能に感じる可能性と、人工知能が教育をどのように変えるか
現在、なぜこれだけ人工知能が騒がれているかというと、新しい機械学習の方法であるディープラーニングが登場したからです。英語の先生であれば、生徒のテストの回答や英会話の内容を見て、この生徒は「発音を重点的に勉強した方がいいな」「単語を勉強してきてないな」などと足りないインプットが分かったり、「英文を全部理解しないと次に進みたくないタイプなんだな」「音で勉強するのが得意なんだな」といった向いている学習スタイルが長年の経験から分かると思います。
英語力と相関関係のある「変数」は、運用できる単語数、文法知識、発音、長文読解能力、リスニング力、スペリングの正確性など様々なものがあると思います。ディープラーニングが登場する前は、英語の先生ごとに自分の考える英語上達方法があり、生徒の状況を見てここのスキルを磨こうと助言したり、こんな学習方法があっているんじゃないと勧めたりしているのが現状だと思います。これがオンラインサービスであれば、頻出英単語をレベル分けしてあらかじめデータベースに入れておき、生徒に英作文を書かせてみて使用している単語レベルを元に、次に勉強すべきレベルの単語をリコメンドするプログラムを組む、といったようなサービスが一般的です。
一方、ディープラーニングを用いると、その「変数」自体をコンピューターが探し出せるようになります。上記の英作文と英単語のレベル分けのようなあらかじめプログラムが組まれた条件に対する結果の出力ではなく、生徒のアウトプットを見て人間が感知できないレベルの変数を探し出し、次の学習コンテンツをリコメンドしたり、適切な学習スタイルをリコメンドすることができます。
この人工知能の活用が始まったら、高度にパーソナライズされた学習サービスを生徒に提供できるようになるため、先生が1人1人のアウトプットを見て自身の経験から変数を発見するよりも正確な変数が発見できますし、それに対する学習コンテンツや学習スタイルの提案もより正確になるはずです。
弊社のオンライン英会話ベストティーチャーは、集団講義の一斉授業で先生がすべての生徒に同じコンテンツを教えるスタイルは、単語、文法、長文読解などの2技能学習であれば可能ですが、自分が話したいことを話したり書きたいことを書く4技能学習には対応できないと考えているため、ICTを活用して世界中の講師とつなぎ、生徒に自分が伝えたいことをアウトプットさせてそれに対してフィードバックするというコンセプトで運営されています。
つまり、講師が生徒のアウトプットを見て、このアウトプットを正確にするためにはこのような単語や文法を勉強してくださいねとフィードバックする、いわばアウトプットベースでのインプットという学習メソッドで運営されています。現在弊社の講師が行っているものを人工知能が行えるようになれば、より安価で、より精度が高く、より利便性の高いサービスを提供できるようになるはずです。そこを目指したい。
その人工知能を利用したオンラインサービスを、学校、塾・予備校、英会話スクールなどの勉強できる「場所」で、モチベーションを管理してくれる「先生」や同じ目標を目指す「仲間」と一緒に勉強する、これがベストティーチャーが2016年以降に目指す理想の教育サービスの形です。
文責:ベストティーチャー代表取締役社長 宮地俊充(連絡先:facebook)
*ベストティーチャーでは、iOS/Railsエンジニアの方を募集しています。テクノロジーを使った英語学習サービスの開発にご興味のある方は是非ご連絡ください!
[…] 学習サービスの4つの価値の源泉と人工知能が教育をどう変えるかという記事を引用して考えてみます。 […]