中高一貫校という特色を生かし、革新的な教育を進める駒込学園の英語教育に関する理念や今後の目標について、駒込学園国際部長の久保昌央先生にお話を伺いました。
海外留学制度は受験のためではない
現在我が校では、英語研修として中高の希望者に海外留学プログラムを提供しています。2015年度から中学3年生を対象に、これまで学習してきた英語の総決算としてセブ島にある語学学校で1週間の短期語学研修を実施します。1限から6限までマンツーマンの語学集中トレーニングを続けることにより、子どもたちは語学力だけではなく、自信と自発性を身につけることができると考えています。
高校生はオーストラリアとニュージーランドへの中期・長期留学をするチャンスがあります。中期は3ヶ月、長期は1年間のプログラムです。
こうした語学研修や留学プログラムの目的というと、大体皆さんは「英語ができるようになるから大学受験で有利になる」とおっしゃりますが、私は留学のメリットは別のところにあると思っています。
まず、中学生や高校生の多感な時期に海外文化を経験することはとても大切なことだと思います。異文化に触れて、自分の考えを内部から揺さぶられる感覚を体験することができます。
大学生になるともう自分の考え方は固まってきつつありますが、中高生はまだ価値観や世界観が完全にできあがっていません。その多感な時期に自文化と異なるルールに触れること、日本という国を客観的に見ることは、生徒の将来にとって大きな財産となると信じています。
ですから私は保護者の皆さんには「高校留学は大学受験にとってはデメリットの面があるかもしれませんが、生徒たちの10〜15年先の将来を見たときに、他人とは違うユニークな視点を持ち、多角的にものごとを分析できる眼を持つという大きなメリットを得られる面があります。」と説明しています。
先生と生徒の仲がいいという駒込学園では、扉を常に開放している職員室が質問に来る生徒であふれ返っていた。
文法重要視の英語教育を変えるためには
高校の英語教育の一番の問題は、やはり文法を最重要視する「細部完璧主義的」な英語教育にあると思います。私の個人的な考え方ですが、生徒たちは間違うことが自分の汚点になるのではと恐れています。
「完璧な英語」を目指すことを美徳として、間違いが生じる過程を許さない土壌がこれまでの英語教育に存在していると思います。さらに、教室には「間違った英語を話すことは恥ずかしい」という強迫観念のような雰囲気が日本人の文化として存在しています。
しかし本来、言語を習得する際に生じる間違いは重要なプロセスであって、ミスを重ねながら覚える教育、許容可能なミスについては保留にして全体を評価する「いいかげん(良い加減)」な教育が必要であると考えます。
特に中学生には「大きく粗削り」する教育がまずは最優先されるべきだと思います。教室は日本特有の雰囲気から、むしろ間違いを歓迎するゾーンに変えていく必要があると思います。現在中学1年生の「オールイングリッシュ」の授業では、生徒たちは間違いを恐れずに生き生きと英語を話しています。
そういう意味では、間違いが紙面上に残るライティングよりも、一過性で間違いが残らないスピーキングの方が生徒たちにとって取り組みやすいのかと思います。
ライティングは間違いが目に見える形で残るので、生徒は文法ばかりを気にしてしまい、発信が消極的になってしまいがちです。私自身が細かい文法の勉強が嫌で英語嫌いになってしまった経験がありますので、まずは「間違ってはいけない」という恥の文化を捨てて、英語を好きになってくれる教育をしたいと思っています。
そのためには、英語を発信する際は「要はメッセージが伝わればいい」ことを生徒に理解してもらうことを重視しています。間違ってもいいから英語を口から出すこと、そしてその楽しさに気づいてもらいたいと思っています。楽しさがわかれば、文法ミスにこだわらずに、リーディングやライティングにも興味を持ち、英語を好きになっていくのではないかと信じています。
日本の英語教育では、「細部完璧主義的」な指導を重視している教員が多いというのが現状です。ただ、やはり若い教員からは変化が感じられます。若くて新しい考え方を持った教員がこうした悪しき部分をどんどん変えてくれればと願っています。
久保先生が使用する英語教材はかなり難しそうだが、4技能で多面的なアプローチを行うことで生徒は理解できるようになるという。
今後の展望「ICT 教育」
海外の事例で、タブレット端末を授業中に使うとはあまり聞きません。実際には宿題や予習で使うのがほとんどだと思います。少し具体的な話になってしまいますが、本校の英語の授業でタブレット端末を使うとすれば、というところをお話しします。
従来の英語の授業ですと、たとえば難しい長文問題を与えて「読んできなさい」「調べてきなさい」と宿題を出し、授業では文法を説明し暗号解読のように直訳するのが中心になっていると思います。私はこのやり方ではダメだと思っています。
ICT教育の導入で、生徒にできるだけ多くのタスクを与え、能動的な言語活動ができる環境を整える必要があります。たとえば、中学では学習する文法を予めスライド教材として送信し、授業ではそれを元にドリルを解きます。
高校では難解な英文をやさしい英文に書き換えたものをリスニング教材として作成し、生徒のタブレットに送信します。この一工程を加えることにより、難解な文章を読み解く上での一助になると同時にリスニング力の向上にも結びつきます。予習段階でリスニングを統合させて、リーディングの授業と結びつけることができるわけです。授業では文法の解説をするだけでなく、パラグラフの内容をパラフレーズして書かせるライティング、さらにその内容について英語でディスカッションさせることによって4技能をバランスよく統合することができます。
以上のような授業が可能になれば、生徒は一つのトピックに対して「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能すべてでアプローチすることになります。それが私の目標とするICT教育です。
コンピュータ室には真新しいパソコンが並ぶ。2015年12月にwifi環境も整え、iPadによるICT教育が2016年度より中1、高1を中心に導入される予定だ。
学校独自の教育を行うための新コース創設
本校では2016年度から中学校に「スーパー・アドバンス・イングリッシュコース」高校に「国際教養コース」を創設します。こうしたコースを新しく作ると、一見英語だけにフォーカスした教育だと思われがちですが、最終的な目標は他教科との融合です。
たとえば「原発問題」という1つのトピックに対して、理科では原子力発電の仕組み、社会では戦後の核拡散問題の歴史、英語ではそれに関連した教材を読んでいくというように、さまざまな面からの取り組みを同時期に組み合わせるカリキュラムを考えています。各教科を連関させると、生徒の中でもそれまでの勉強が有機的に結びつくと思います。
先ほどの英語の授業における4技能の話とも重なりますが、このように1つのテーマに対して多面的に取り組ませるのが重要と考えています。ですから「国際教養コース」ではいろいろな問題に対して、多面的に考えさせる授業、すなわち「クロス・スタディ」をカリキュラムに仕込んでいきたいと思っております。
中学校の「スーパー・アドバンス・イングリッシュコース」では「学問を学ぶための英語」を先取りします。基礎と発展をバランスよく学習の中に取り入れて、中3までには英検®️準2級取得を目標にしています。
もちろん英語だけでは、これからのグローバル社会を生きて行くことはできないので、専門分野に関しては中学、高校でしっかり学ばせます。英語で何かを発信する前に、まずは確固たる自分の意見を持つことが必要です。
「スーパー・アドバンス・イングリッシュコース」の生徒は進路を文系にする必要はないと思っていますので、国際教養コースとの完全な接続は考えていません。2つの新コースはそれぞれ独自の教育を行うために作られたということです。私の個人的な予想ですが、将来的には従来の定期試験が減り、代わりにレポートやプレゼンテーションという形での評価に移行すると思います。
本校独自の教材も用意しようと思っています。ただ、こうした新しいコースでは、1つの教科書に頼らないのが特徴になってくるのではないかと思います。
駒込学園では教育目標として「21世紀型人材」の育成を提唱しています。「21世紀型人材」とは、論理的な思考能力とそれを相手に伝えられるプレゼンテーション能力を持つ人材です。そのためには知識偏重教育ではなく、答えのない問いを与えてあげることが重要だと思います。先ほどの「国際教養コース」では環境システムという授業ではまさに「答えのない問い」について考えます。
「細部完璧主義」を打破するには
本校というよりもむしろ日本の英語教育の問題は2点あります。1点目はリーディングはリーディングで1つの授業、リスニングはリスニングでまた別の授業、というふうに分断し、相互に繋がりを感じられないことです。2点目はリーディングに重きを置きすぎていることです。
2つの問題の解決に向けて、ディスカッションなどをからめて4技能すべてを網羅することを考えていますが、従来の教科書では限界があります。
そこで、2016年度から設置する「国際教養コース」では従来の科目とは別に、学校独自に授業の内容を設定できる「学校設定科目」を積極的に取り入れる予定です。この「学校設定科目」では学校独自の教材を使って授業ができるので、たとえば先程お話したような4技能技能すべて使った英語の授業や、答えのない問いについて考える科目などを取り入れたいです。
近年、大学の入試改革がさまざまな場所で議論されていますが、私は基本的に大きな変化・改革は文科省の方針を待つのではなく、私学が先頭に立って、開拓していくべきだと思っています。大学の入試制度が変わるのを待つというよりは、むしろこちら側(高校)から変化(英語教育の改革)を起こすというくらいの気持ちでやっていきたいです。
参考:駒込学園HP
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