「新課程大学入試への動き」前編では、私立中学入試の変化が、日本の英語教育全体の変化と関連していることを指摘しました。後編では、私立中学入試の変化が大学入試改革までを視野に入れた動きであることについて説明します。
目次
私立中学入試の変化は新しい大学入試への胎動
今後予定されている新課程への移行時期は、以下のとおりです。
小学校:2020年度からすべての学年で一斉に移行
中学校:2021年度からすべての学年で一斉に移行
高校:2022年度は1年生のみ、2023年度は1・2年生のみで、2024年度で全学年が移行
新課程への移行と大学入試に関する変化が、現在の学年とどう関係してくるのかをまとめたのが以下の図です。(センター試験:大学入試センター試験、共通テスト:大学入学共通テスト)
大学入試はその年度に卒業した生徒が学んだ教育課程にもとづいて実施されますので、新課程にもとづいた入試は最初に新課程を終える2025年春の卒業生、つまり2019年度入学の中1生から始まることになります。
ここでお気づきでしょうか。そうです、2019年度の中1生は実際に新課程に変わるのは中3からですが、大学入試の時には新課程にもとづく英語試験を受験することになるのです。
2019年度の中1生の大学入試では、小3から英語を学ぶカリキュラムに沿った英語試験を受験することになるのです。当面は一定の配慮がされると思われますが、基本はあくまで新課程にもとづく入試です。
私立中学入試で英語採用=英語力を持つ生徒の囲い込み
実は、首都圏の私立中学で英語の採用が増えている理由のひとつが、新課程入試への対応にあります。私立校は大学進学実績が生徒募集に大きな影響をもつため、大学入試の大きな変化に早くから備える必要があるからです。英語力を持った生徒を早い時期に確保しておくことは、私立校にとって非常に重要な課題となっているのです。
私立中学だけの話ではない
英語力を持つ生徒の囲い込みの動きは、私立校に限ったことではありません。東京都教育委員会は2019年2月14日、都内公立中学校3年生を対象に、民間資格・検定試験を活用した「東京都中学校英語スピーキングテスト(仮称)」を2021年度より実施すると発表しました。そして、このテストの成績は都立高校の入試で活用される予定です。つまり、これも2019年の中1生から対象となります。
また私立中学に在籍している生徒でも、都立高校を志望する場合は個人でこのテストを受けなくてはなりません。この対応も、都立高校生の大学進学を見据えたものです。このように、新課程入試に備える動きは公立・私立の枠を超えて既に始まっているのです。
大学入試はどう変わるか
大学入試に関していうと、新課程入試開始以前にも大きな変化が待ち構えています。それは、2021年度入学者の選抜から大学入試制度が変更となることです。新しい入試制度では「多面的で多様な能力の評価」がねらいとなっています。
高校や大学の教育では、これからの社会で生き抜くために必要となる「言語能力」「情報活用能力」「問題の発見・解決能力」などを伸ばしていかなければなりません。入試においてもこれまでのように知識の量を点数で測るだけではなく、さまざまな能力や可能性を評価する入試に変えていく必要があります。そこで現在の入試区分(一般・推薦・AO入試)を新たな区分(一般・学校推薦型・総合型選抜)に変えるとともに、すべての選抜において学力の比重を高めます。
また、どちらかと言えば知識に偏っていたこれまでの大学入試センター試験を廃止して、「思考力」や「表現力」を中心とした大学入学共通テストに転換します。そしてこのタイミングで英語試験は4技能(聞く・話す・読む・書く)を課す民間の資格・検定試験を併用することにしたのです。詳しくは以下の記事もご参照ください。
新課程大学入試に最初に直面するのは、2019年度の中1生
2019年度の中1生が受験する最初の新課程入試は、これらさまざまな変更がすべて揃った初めての入試となります。
中1生から大学入試の話は早過ぎるとおっしゃる方も多いと思います。もちろん、今から大学入試のための勉強を始める必要はないでしょう。しかし、中1生がこれから学ぶ内容や直面することになる入試の変化などは、すべてこの大学入試に照準を置いたプログラムに沿っていることは今から理解しておく必要があります。
最後に
新しい大学入試で求められる能力や英語力は短期間で身につくものではありません。長い時間をかけ、地道に日々鍛錬を重ねていかなければ伸びない力だということも肝に銘じておくべきです。
保護者の世代、いや兄姉の世代とも大きく違った教育と入試が今からスタートしようとしています。