東京赤坂にある山脇学園中学校・高等学校は、1903年に設立された中高一貫の女子校です。112年の女子教育の歴史と伝統を継承しながらも「社会で生き生きと活躍できる女性のリーダーの育成」を新たな教育目標とし、21世紀に活躍するための教育改革を積極的に進めています。
また、それらの改革の柱の一つとして「国際社会で活躍する女性の育成」を目標に掲げ、英語教育の強化充実を推進しています。具体的な英語の授業や、英語教育の考え方について、英語科主任の古谷先生にお話を伺いました。
目次
山脇学園中学校・高等学校の英語教育に対する考え方
急速にグローバル化が進行する21世紀の社会の中で、日本の英語教育も大きく舵が切られているところですが、山脇学園では「コミュニケーションを目的とし、自らの意見を発信できる英語力」を目指し、教科の学習をすすめています。4年前の2011年に完成したEnglish Islandを拠点とし、ネイティブ教員とバイリンガル英語教員によるオールイングリッシュに特化した授業や活動を行い、一般教室で行う英語授業との相乗効果が高まるようにプログラムを組んでいます。
山脇学園中学校・高等学校独自の英語学習プログラム
山脇ルネサンスは2009年より始まっていますが、私が山脇学園に赴任した2011年から、このわずか数年の間にも、プログラムは大きく変化しています。
まず、中学校の英語授業では、1、2年生の英語教科書をNew Treasure(Z会)に変えました。文部科学省の検定教科書と比較すると、英文の量が多く、単語のレベルも高いテキストで、 2冊目にあたるStage 2 までで中学校3年間の文法項目をカバーしています。語彙に関しては、検定教科書の2倍以上となる2,000語以上が出てきます。本校の先生たちはたいへん熱心に担当者同士の打ち合わせを緊密にし、細やかな指導をしており、中学2年生で Stage 2がほぼ終了します。
英語の授業は1週間に6時間ありますが、生徒の学習状況に応じてグレードを分けてクラスを設定していて、そのうちの1~3時間をネイティブ教員がオールイングリッシュで授業をしています。また、本校の英語教員には海外やインターナショナルスクールで教育を受けてきた、英米の大学で教育を受けた、海外の学校に勤務していたなど、『本物の』バイリンガルも数多く、通常の授業でも英語をたくさん話し、書く機会があります。
高校では、日本の大学を受験する生徒に対しては、その準備をしっかりと行います。高校の学習内容は高校2年生までに完成していますので、高3の授業はすべて入試対策演習となりますが、受験にしか通用しないテクニックではなく、大学入学後につながるような視点でリーディングやライティングを指導しています。TEDを聞いて、見て、考えて、書くといった活動もしています。
イングリッシュアイランドについて
イングリッシュアイランドは本校独自の英語教育施設です。3号館3階のフロア全体に英語圏の街並みを再現し、ネイティブ教員が常駐する英語の世界を創りました。
中学生には、週6時間の通常授業とは別に、週に1時間E.I.S. (English Island Stay) の授業があり、自分の興味のあることについて、楽しみながら英語で表現をする活動を行っています。E.I.の街の中には、さまざまなお店がありますので、それぞれの場所でスキットを練習したり、Harry PotterやFrozen(「アナ雪」)などの映画の吹き替え練習、ラジオやテレビ番組の制作、英語新聞の作製などを行います。
スピーチ (Public Speech) は、中学1年生での自己紹介から始まり、2年生では「情報を伝えるスピーチ」(Information Speech) で自分の好きなトピックについて話し、中学3年生では意見の分かれるテーマでの「相手を説得するスピーチ」(Persuasion Speech)へと段階的に学習を進めていきます。
こうしたコミュニカティブな英語授業は、高校生ではACE (American Classroom Experience) という形で継続します。インターナショナルスクールの授業のようなイメージで、社会や理科など教科の内容や現実社会における問題を題材にレクチャー、グループワーク、プレゼンテーション、ディスカッションを行っています。
イングリッシュアイランドに対する生徒の評判はとても良く、英語に対する反応が自然なものとなり、英語学習へのモチベーションが高まってきています。いざ英語で話してみよう!となった時の雰囲気が大きく変化しました。ネイティブの教員も、『山脇の生徒はポジティブで素直で、いつも元気がよいので、気持ちよく授業が出来ている』と話しています。
新設されるクロスカルチャークラスについて
2016年からは「英語特別枠入試」を新設します。これは英語を入試科目とする「帰国生入試(定員20名)」と「一般入試(20名)」からなる入試で、これまでの一般入試(定員240名)に加え、新たに1クラスを新設します。海外経験豊かな帰国生と、海外での活躍を志して英語を継続して学習してきた小学生の方が、お互いの経験や文化を活かし合う「クロスカルチャー」という理念で教育を実施します。英語については入学時より4つのレベルに分けた習熟度別授業を行い、どの授業においてもよりグローバルな視点で、英語を使って考え、発表する活動を取り入れていきます。
高校には、国際系や海外留学・進学を目指す生徒のための「EGC(Education for Global Citizens)クラス」を置いているほか、英語力を活かしながらも理系を含む様々な進路を選べるようなカリキュラムになっています。
この入試の実施によって、多くの生徒たちが国際社会で活躍する様々な良い刺激や影響を与えられ、クロスカルチャーの理念が校内に広がることを期待しています。
海外や国内で実施する研修について
英語に関わる研修も着々と充実してきました。私が赴任した時には、高校1年生を対象とした「オーストラリア語学研修」(2週間)のみでしたが、現在までに、中学2年生対象の福島県の英語村での「ブリティッシュ・ヒルズ語学研修」(2泊3日)、中学3年生の英語チャレンジプログラム生全員が英国ブライトンの語学学校で授業を受けホームステイをする「英国ブライトン語学研修」(2週間)、高校2年生が本校の姉妹校であるLasell Collegeにて大学寮に滞在しながら、ハイレベルなESL授業を受ける「米国ボストン留学体験」(2週間)が実施されました。また、中長期の海外留学として高1と高2の生徒対象の、3か月または1年間のオーストラリアの女子校への留学プログラムも今年度から始まりました。
校内でも、本年度8月にアメリカのトップレベルの女子大生を本校に招いて、国際社会での活躍への志と見識の高さに触れ、リーダーシップを学びながら、山脇学園卒業後の自分を設定する機会とするYGEP (Yamawaki Girls’ Encouragement Program) を実施しました。2016年度には、中学1年生対象の「英語イマージョン・キャンプ」も予定されています。
このように、本校では英語を勉強する意欲が高い生徒がしっかりと学べる環境の整備を進めています。
大学入試に4技能試験が普及されることについて
確かに、大学入試の英語問題も変わってきています。難関大であるほど、些末な文法項目の知識量ではなく、現代的な内容の英文が本当に読めていて、理解できているかどうかが鍵となる問題が出題されています。このような傾向がさらに進み、現在の4技能試験が入学試験の『一部で活用できる』という状態ではなく、東大・京大・一橋大など最難関の国立大学や医学部、早稲田・慶應などの私立大学の入学試験として課される英語試験の『メインストリームがコミュニカティブな試験となる』ことを期待しています。このことが実現してはじめて、日本の中学校・高等学校の英語教育は根本から変わると思います。