2015年9月27日に開催されたICEE(国際英語コミュニケーション能力検定)で準優勝し、TOEIC/実用英語指導者として活躍する澤田健治先生に、理想の英語指導法や4技能試験についてインタビューしました。
澤田健治 プロフィール
・英語習得を目指すTOEIC/英語スクール「澤田塾」代表
・日英翻訳者(ひらがなタイムズ/NHK)
・TOEIC990点 ・英検1級(通算15回合格)
・ICEE*(国際英語コミュニケーション能力検定)3年連続決勝進出
*松本道弘氏が開発した、英語コミュニケーション能力を競い合うトーナメント
著書「TOEICテスト最強攻略PART1&2」(通称「澤トレ」)
目次
- Beyond TOEIC
- TOEIC(R)は2技能の試験なので、スピーキングなどのアウトプット能力は求められていませんよね。なぜTOEIC対策で「使える英語」を学ぶ必要があるのでしょうか?
- なるほど。リスニングができるようになるためには、スピーキングもできなければならないという発想は確かに盲点ですね。具体的にはどのようなことをすればよいのでしょうか?
- これらのトレーニングは、澤田先生が出版されたTOEIC本(通称「澤トレ」)で実践することができるのでしょうか?
- TOEICから「使える英語」を学び、それによってスコアアップも実現できるという先生の考え方はよくわかりました。英語習得を目指したTOEIC対策をする上で、他に大切なことはありますか?
- 4技能試験導入に期待すること
- 英語学習者へメッセージ
Beyond TOEIC
私が運営する「澤田塾」では、TOEICクラスと実用英語クラスをそれぞれ土曜日と日曜日に開講しています。TOEICクラスにおいても、「英語習得」を最終目標に置き、スコアアップだけでは終わらない指導を行っています。
「問題を解くだけ」「スコアさえ取れればいい」という従来のアプローチ、発想から脱却し、TOEICを超える(go beyond TOEIC)、つまり、TOEICで求められている以上のことをすることで、TOEICで結果を出すとともに、後々も役立つ英語力を身に付けることを目指しています。
実用英語クラスでは、TOEICで目標スコアを達成した生徒さんに対して、ネイティブのために書かれた(話された)素材を使って、より本格的に英語習得を目指した指導を行っています。さらに、英検1級以上の生徒さんを対象とした最上級レベルのクラスでは、通訳やスピーチ、ディベートなどの練習を一緒に行い、全員でICEEにも参加しています。
TOEIC(R)は2技能の試験なので、スピーキングなどのアウトプット能力は求められていませんよね。なぜTOEIC対策で「使える英語」を学ぶ必要があるのでしょうか?
確かに、TOEICでスコアを取るためには、英語を使えるようになる必要はない、と考えるのは自然なことです。TOEICでスコアを取れさえすれば、就職や転職、人事などにおいて有利になりますから、とりあえずスコアアップしたいと考える人が多いのは理解できます。
このような意見に対して、「国際的に活躍する日本人には、英語を話したり、書いたりする能力も必要だ」みたいなベタな反論をするつもりはありません。
そこで、ちょっと視点を変えて、「英語を使えるようになると、TOEICでも高いスコアが取りやすくなる」と考えてみたらどうでしょうか。
具体的には、「TOEICの英語を自分でも言えるようにする」ということです。これは、多くの学習者にとって盲点になっていると思います。
TOEICは、リスニングとリーディングの2技能の試験なので、聞けて、読めさえすればよいと考えがちです。しかし、実はこれらの受信スキルは、残り2つの発信スキル(話す、書く)とも密接に関係しています。
ここでは、リスニングとスピーキングの関係に絞ってお話します。TOEICに限らず、リスニングが苦手な人は多いですが、どうやったら英語を聞き取れるようになるのでしょうか。「たくさん聞くしかない」と考えるかもしれません。もちろん、大量に英語のシャワーを浴びることも重要なのですが、それだけでは、リスニング力が伸び悩む人が相当数います。ところが、声を出すトレーニングによって、自分で言える英語を増やすようにすると、一気にリスニング力とスコアが向上する例がたくさんあります。
なぜなら、「自分で言えるものは、楽に聞き取れる」からです。
つまり、リスニング力を鍛えるためには、スピーキング力も鍛える必要があるのです。トレーニングによって英語を自分の口から出せるようになると、英語により慣れ親しんだ状態になり、それまで受け付けなかった英語の音がすっと耳に入ってくるようになっていきます。
なるほど。リスニングができるようになるためには、スピーキングもできなければならないという発想は確かに盲点ですね。具体的にはどのようなことをすればよいのでしょうか?
英語を聞き取れない主な原因は、「速くて聞き取れない」という瞬発力の不足と、「意味がわからない」という知識の不足、この2つに集約されます。
これを克服するために、次の2つのことができるようになることが重要です。
1.英語を聞こえた通りに繰り返せるようになる
2.英語の意味を理解し、自分の言葉として言えるようになる
私の指導では、TOEICクラス、実用英語クラスともに、Listen & RepeatとRead & Look upという2つのトレーニングを徹底的に行います。
Listen & Repeatは、英文を最後まで聞き、聞こえた通りに繰り返すエクササイズです。
例えば、TOEICのPart 1(写真描写問題)だったら、A man and a woman are seated across from each other.というセンテンスを最後まで聞き、それをそっくりそのまま言います。
リスニングが苦手な人の場合は、たどたどしく、Man and woman seat from each other. くらいしか言えないかもしれません。でも、そこがまさに「伸びシロ」なんですね。
しっかり聞き取って、A man and a woman are seated across from each other.とスムーズに言える人と、まともに言えない人との間には歴然としたリスニング力、英語運用能力の差が存在します。そして、その能力差はTOEICのスコアにもそのまま反映されます。
最終的には、ナレーターと同じリズムとスピードでリピートできるようになることが目標です。それによって、英語をキャッチするのに必要な「瞬発力」が身に付きます。
「ただ問題に正解しさえすればよい」という発想から一歩踏み込んで、本番で要求される以上の基準を練習でクリアしておくんです。そうすれば、試験問題は容易に正解できるようになります。と同時に、スコアアップにとどまらない、本物の語学力が身に付きます。
Read & Look upでは、Listen & Repeatした英文の意味を理解・確認し、それを自分の言葉として言えるようにします。
「男性と女性が向かい合わせに座っている」という和訳を音読したら、A man and a woman are seated across from each other.という英文を一度音読し、見上げて、空で言います。一つ一つの英文を内在化して、自分の中に取り込む(インストールする)イメージです。
このよう形で自分でも言えるようになってしまえば、次に同じような英文が聞こえたときには、余裕で聞き取れるようになります。
「自分で言えるものは、楽に聞き取れる」とは、そういうことです。
意味を理解した英語をトレーニングによって運動記憶に変え、表現と音のデータベースとして取り込んでいき、その蓄積が一定の量に達すると、英語の聞こえ方が着実に変わります。
具体的には、「英語を聞く→頭で考える→理解」と3段階だったのが、「英語を聞く→理解」のように、「直聴直解」できるようになります。
リスニング力を上げるためにも、自分で言える英語を増やすようにしていきましょう。
これらのトレーニングは、澤田先生が出版されたTOEIC本(通称「澤トレ」)で実践することができるのでしょうか?
はい。澤トレは、私の実用的なTOEIC指導法を書籍として体現したものです。上述のListen & RepeatとRead & Look upによって、TOEICで使われる英語を自分でも言えるようにすることで、スコアアップに必要なリスニング力だけでなく、発信力も同時に鍛えられるようになっています。
本書では、スコアアップと使える英語の両立を目指すTOEIC学習者を主なターゲットにしていますが、これまで問題を解くことしかやっていなかった方々にもぜひ試してもらいたいと思っています。
様々な事情から、「手っ取り早くスコアアップできればいい」と考えてしまいがちですが、「英語を使えるようになることに全く興味がない」という人はほとんどいないと思います。言い換えれば、「手っ取り早くスコアアップできればいいと考えている人=英語を使えないままでいい人」ではなく、実際には、「手っ取り早くスコアアップしたいけど、本当は英語を使えるようにもなりたい」というのが本音ではないでしょうか。
単にこれまでは実践的な学習法を知らなかっただけで、使える英語を身に付けるトレーニングが、リスニング力の向上、しいてはスコアアップにもつながるということを実感されたら、考え方も大きく変わるはずです。そうやってTOEIC対策を通じて、語学力を鍛える人が増えていけば、日本人全体の英語力も向上していくと私は信じています。
また、澤トレは、TOEIC対策書というだけでなく、英語習得に役立つ実践的なトレーニングができる教材でもあるため、TOEICを受験されない英語学習者の方々にもお使いいただいています。
私自身は、TOEIC対策と実用英語の勉強をほとんど区別していません。本来、TOEICは英語のコミュニケーション能力を測る試験です。「TOEICの勉強をしても、英語力は上がらない」という批判がありますが、ナンセンスだと思いませんか? それは英語力が上がらない方法でTOEIC対策をしているだけで、やり方を工夫すれば、TOEIC対策を通じて「使える英語」を学ぶことはできますし、逆に、「使える英語」を身に付ける努力によって、TOEICのスコアも上がるのです。
TOEICから「使える英語」を学び、それによってスコアアップも実現できるという先生の考え方はよくわかりました。英語習得を目指したTOEIC対策をする上で、他に大切なことはありますか?
TOEICテキスト以外の素材も使って、「現代英語」を広く学ぶ
TOEICから「使える英語」を学ぶことができると言いましたが、「TOEICだけやっていれば、日本人として必要な英語力が全て身に付くわけではない」という事実にも目を向ける必要があります。
特に、最終的に英語の習得を見据えてTOEIC対策をしている場合には、この点は無視できません。
だから、私はTOEICクラスにおいても、TOEICテキスト以外の英語素材(洋書やTEDトーク、English Central、CNN Student Newsなど)にもたくさん触れてもらい、TOEICという枠を超えた「現代英語」を広く学んでもらうようにしています。
洋書としては、邦書の英訳を使用しています。現在は、近藤麻理恵(こんまり)の「人生がときめく片づけの魔法」(The Life-Changing Magic of Tidying Up: The Japanese Art of Decluttering and Organizing)と村上春樹の「1Q84」を指定教材にしています。この2冊は、英訳のクオリティーが非常に高く、洋書としても世界的に大ヒットしています。両氏は、2014年にTIME誌が発表した「世界で最も影響力のある100人」に日本から選ばれた2人でもあり、本の内容は世界的にも高い評価を得ています。日本の素晴らしいコンテンツの英訳を逆輸入して、英語学習に活用しているという感じです。
「人生がときめく片づけの魔法」 原書、英訳、オーディオブックの3点セット
邦書の英訳を使うことには、いくつものメリットがあります。まず、概して読みづらい英文の和訳と違い、意味の確認をする際に、自然な原書の日本語を読むことができるので、スムーズで快適です。また、「この日本語をどう英語にするか?」という観点で、元の日本語と英訳を比較すると、日本人が英語の表現力を磨くための最適な教材になります。日本的な概念が英語になっているため、我々にとっては、内容に共感したり、感情移入したりしやすく、普通の洋書を使う場合と比べて、記憶効率、学習効率が高くなると考えています。なによりも、コンテンツ自体が面白いので、楽しみながら英語に触れる量を増やせるのが大きいです。さらに、オーディオブックの音声を使ってシャドーイングやオーバーラッピングなどもすれば、リスニング力やスピーキング力の向上にもつなげることができます。
「1Q84」原書、英訳、オーディオブックの3点セット
4技能試験導入に期待すること
4技能試験が導入されることで、これまで軽視されがちだったスピーキングとライティングにも、生徒の意識が向くようになることには大きな意味があると思います。ただ、多くの生徒が試験対策としてだけ、これらの技能の強化に取り組むようになるのではなく、「英語が使えるようになると、将来有利になる」と考え、中高生がより大きな視野で英語習得を目指すようになることを私は期待しています。
もちろん4技能試験導入の初期段階では、試験特化型のスピーキング対策、ライティング対策だけに終始してしまう生徒がほとんどかもしれませんが、それでもまずは大きな一歩です。それをきっかけにして、オンライン英会話などで、外国人と英語でコミュニケーションする機会を積極的に持つようになったり、英語で自己表現するようになる生徒が増えていってほしいですね。入試が2技能試験だったときよりも、教師としても、「英語が使える日本人になる」という本来の目標を生徒に提示しやすい環境や風土が生まれることも期待しています。
「使えるようになるために、英語を学ぶ」ということが、中高生の間で当たり前になる時代が来れば、日本人の英語力は確実に変わっていくはずです。そのための最初の一歩として、まず我々教師が英語を使える日本人になることを目指し、上手い下手関係なく、生徒の前で堂々と英語を話し、模範を示す必要があると思います。これは私自身も自分に言い聞かせ、毎回行っていることでもあります。
英語学習者へメッセージ
英語を使うことを先延ばしにしない
澤田塾で実践している特別な取り組みとも関連するのですが、「英語を使うことを先延ばしにせず、今から始めましょう!」と言いたいですね。
澤田塾では、実用英語クラスだけでなく、TOEICクラスにおいても、クラスメイトと英語で話す時間を設け、英語での自己表現にも現在進行形で挑戦してもらっています。
さらに、もっと英語を使って色んな人と交流したいという塾生や外部生のために、「英語懇談会」というイベントも定期的に開催しています。
「TOEICで目標スコアを取るまでは、英語を使うことは先延ばしにしてもいい」と考えたくなるのはわかります。
実は私も以前はその考えを事実上認めていた時期があり、「いつか英語を使うときのために、TOEICから使える英語を学びましょう」なんて言っていました。でも次第に、「いつか」っていつなのだろう?という疑問を抱くようになりました。本当にその「いつか」は来るのだろうか? 「いつか」なんて呑気なことを言っていたら、その「いつか」は永遠に訪れないかもしれない。「いつか」などという遠い未来ではなく、澤田塾に通ってくれている「今」、英語を使い始めてもらわないとダメだ。そう考えるようになりました。
これは澤田塾だけの話でありません。
私は、多くの日本人の英語学習者が英語を使うことを先延ばしにしていることを本気で危惧しています。
英語をほとんど使うことなく、TOEICのスコアだけを追いかけて、3年、5年と経過し、下手したら、そのまま一生終わってしまうこともありえます。
英語を学ぶ大きな目的の一つは、自分が言いたいことを英語で表現できるようになることだったはずです。TOEIC対策がそれを邪魔してしまったとしたら、本末転倒ではないでしょうか。
「スコアを上げたい」という想いはみんな一緒です。それは絶対に叶えましょう。
と同時に、「英語を使えるようになる」という、より大きな目標にも向かっていきませんか?