連載:教育者のための英語4技能教室
第3回: 英語学習で大切なこと
前回取り上げた日韓高校生の英語力比較分析では、韓国では小学校低学年から英語教育が重視されていて、特にヒアリングとスピーキングに力点を置いていること、小学校から高校までを通じて学ぶ語彙数や英文の質や量について日本とは大きな差があること、また日本の英語授業にくらべて、韓国での授業ではより積極的に「英語による授業」が行われていることなどが両国の生徒の英語力に差を生じている要因ではないかと指摘しています。その一方で、韓国では現状ライティングが授業であまり扱われておらず、他の英語力にくらべて低いレベルにとどまっているのではないか、というのがこの調査の分析です。
日韓二国の比較だけからすべてのことは言えないにしても、母国語と相当距離のある外国語(*1)を習得するためには、学習の絶対量と使用経験の量が重要になることは確かでしょう。特に、多様なケースが予想されるスピーキングやライティングについては、使用経験の質と量が重要です。
*1アメリカ国務省の外交官養成機関である Foreign Service Instituteは、米国人が外国語を習得する難易度目安として日本語・韓国語とも最長(最難)の44週を必要としている。(仏・独・伊・スペイン語は20週)また、アメリカ国防総省外国語学校においても、両国語は最高難度のカテゴリーⅣに分類している。
一般に日本の学校教育の質が高いことは、PISA(*2)の最新の調査結果を見ても確かです(*3)。特に、15歳での「数学的リテラシー」と「科学的リテラシー」は、参加した72の国・地域の中でもトップクラスを維持しています。(ただし、「活用する力」や「応用する力」、また主体的に学習する姿勢につながる「楽しさ」や「動機づけ」などについては、成績ほどに高くないことが指摘されています。)
*2 Programme for International Student Assessmentの略:OECDが加盟国を中心に実施している国際的な学習到達度に関する調査。
*3 「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2015」。
今後の英語教育が確かな効果を上げるためには、上記のように「学習の質と量の向上」と「使用経験の増加」が条件になりますが、それを実現するためには授業という限られた時間だけでは十分とは言えません。むしろ、授業以外でどれだけ主体的に英語に触れ、自ら使用経験を積むかが大切になるでしょう。ただしそれは、授業を通じて英語の学習に対する動機づけがしっかりなされることが条件となります。そしてその動機づけは、授業における「成功体験」の有無や頻度に比例してきます。
その意味で、授業において重要となるのは「わかる授業」で終わらずに、「できる授業」を増やしていくことです。右図は、ある中堅高校で生徒による授業評価を実施した結果の一部を図示したものです。主な教科についての評価結果(100点満点)のうち、授業が「わかる」とした評価(ポイント化したもの)が縦棒の上端に、授業の結果「できる」とした評価(同)が下端になります。この図からわかることは、英語は国語とともに「わかる」と「できる」に開きがある(縦棒の長さが長い)教科であり、また、「わかる」「できる」実感が得られにくい(縦棒の位置が低い)教科だということです。