新テストに向けて、高校はどう動く?教員歴39年のベテラン教師に訊く

現在の大学入試センター試験に代わって2020年から始まる「大学入学共通テスト」の概要が、2017年7月に発表されました。2020年当初から英語試験が完全に4技能化されるのではないかと予想されましたが、結果としては従来のマーク式試験(2技能試験)と民間英語4技能試験を併置し、大学側が採用する試験を決定するという結論に至りました。この文科省が下した結論に対しては、さまざまな意見の方がいらっしゃるかと思います。

※新テストについて、詳細を知りたい方は、こちら2020年大学入試新テスト(共通テスト)の概要をまとめてみたをご覧ください。

今回は、関西の高校で英語教師として39年間従事し、さまざまな英語教育の場面でリーダーシップをとってこられた藏野豊彦さんに、今回の新テストについてどのように思われるのか等をインタビューしました。教育関係者の方、必見です!

藏野豊彦さんのプロフィール

高校の英語教師として39年間従事。現在は箕面自由学園高等学校で英語科教諭として勤務。指導した生徒の合格率は、英検2次試験(スピーキング試験)で準1級までは100%、1級でも30%の高率となっている。高校教員のほか、立命館大学教育開発推進機構英語教育高大接続研究会運営委員高校側責任者、大阪外語専門学校讀賣新聞社杯英語スピーチコンテスト審査員、阪神E.S.S.ユニオン顧問会議長、神戸新聞社杯英語スピーチコンテスト審査員長、神戸新聞社杯英語シナリオリーディングコンテスト審査員長など、高校・大学の英語教育界の様々な場面でリーダーシップをとってきた経歴をもつ。

Q. 新テストの発表を受けて、率直にどのように思われましたか?

A. 私は今まで大学受験の指導に長く携わってきました。その大半において、英語を黒板に書いて、和訳をさせるという古い形の英語教育をしてきました。しかし、数年前に文科省より新学習指導要領の発表があり、英語の授業は英語でやるべしという通達がでました。そこで、私たち古い教師も変わっていかなくてはならないと思い、授業をオールイングリッシュでやることから自らの授業改革を始めました。

新学習指導要領に沿って指導した生徒たちが初めて卒業した2016年に行われたセンター試験の英語問題を見たとき、非常にショックを受けました。なぜなら、試験は新学習指導要領に沿っているとは到底言えない内容だったからです。

しかし、2020年からは英語の入試そのものが変わる、民間試験の採用、英語4技能試験の実施ということがクローズアップされてきて、非常に嬉しく思い、今回の発表にとても期待していました。結果として、2020年から4技能試験への全面移行が叶わなかったことは非常に残念ではありますが、現状から見れば妥当なラインに落ち着いたのではないかと思っています。

Q. これまで生徒に対し、どのような英語教育・進路指導をしてこられましたか?

A. 進路指導面では、まずは生徒に大学に合格してもらうことが最も重要だと考えているので、大学進学に向けた指導に力を入れてきました。

英語教育に関していうと、私は若い頃から「英語4技能教育」に興味をもっていましたので、各学校の生徒を集めて、「シナリオリーディングコンテスト」や「スピーチコンテスト」「ネイティブとの交流」などのイベントを積極的に開催してきました。

また、民間英語4技能試験を活用した英語教育にも取り組んできました。さまざまな民間試験がある中で、私は英検にフォーカスしてきました。英検を選んだ理由は主に3つあります。

1つ目は、5級~1級まで分かれているので、段階的にきめ細やかな指導がしやすい検定であるという点。

2つ目は、いろいろな検定が出てきた今でも、英検はあくまでも文科省の学習指導要領に沿った問題が出題されている点です。今まで、毎回問題をみてきましたが、非常にいい問題が出題されていますし、面接試験を除けば、センター試験に近い内容が出題されています。

3つ目は、英検のための対策が必要ない点。面接以外は、それぞれの級のレベルの学年の授業を受けていれば、特別な学習はいりません。センター試験で高得点を取る勉強をしていれば、高校3年生には2級を取得できるほどの実力が確実についてきます。実際に、全校受験で対策会をやってもやらなくても、合格率はほとんど変わっていないような気がします。

Q. 英語4技能教育に若い頃から興味をお持ちであったとおっしゃられましたが、藏野さん自身が学校の授業に英語4技能教育を取り入れたのはいつからですか?また、もし外部の活動では英語4技能教育に力を入れておられたのに、学校の授業に英語4技能教育を取りいれなかったのであれば、それはなぜですか?

A. 私が学校の授業に英語4技能教育を持ち込んだのは、新学習指導要領が発表された後です。もちろんそれ以前から学校の授業で英語4技能教育をするべきだと思っていました。しかし、授業の中では、やはり受験勉強の指導をしなければいけませんでした。旧学習指導要領の中では,英会話はオーラル・コミュニケーションの授業で、ネイティブの先生が教える。私達日本人教員は、読解と文法を教える、という区分けがありました。そのため、授業で英語4技能教育をすることを考える余地も無かったのが当時の実情でした。クラスの授業で英語4技能教育ができない分、授業外で生徒に英検対策などを行っていました。

Q. なぜ高校英語教育を4技能に変えたのか教えてください。また、高校英語教育を4技能に変える際に、どのような苦労があったのか教えてください。

A. 学校の授業に4技能を取り入れたのは、英語教育全体で「実践的なコミュニケーション能力の育成」を目標とするとした新学習指導要領が出たからです。この時、私はやっと授業に4技能教育が取り入れられる!とやる気で満ち溢れていました。一方で周りの多くの先生は、本気で4技能教育に取り組もうとしておらず、とても温度差を感じました。しかし私は、まずは自分一人でもいいから、授業はオールイングリッシュでやることを決心しました。始めのうちは、他の先生や生徒からも「藏野先生は何をやっているんだろう?」という目で見られました。そのような状況の中でも、定期試験の問題には一切日本語を使わない、授業中に生徒の質問が英語でなければ答えないなどの徹底した行動を続けました。その結果、生徒達の間に授業で日本語を使うことに対して不自然さを感じるような雰囲気を育てることができました。この行動が徐々に学校全体の4技能教育を促進しました。

Q. これまでの経験から、学生に必要な英語の授業とは何だと思いますか?

A. 私は生徒によく「英語は学問じゃない」と言います。英語は、体育や音楽と一緒で、実技教科なんです。英語を一生懸命勉強するだけの教科と思うのではなく、身に付ければ早速その日から役立つ実技教科だと思えば、英語を楽しく学べるはずです。ラジオで英語が聞き取れたり、洋画でハリウッドスターの肉声をそのまま英語で理解できたりしますよね。しかし、従来の日本の英語教育はそうではなかったから、英語が嫌いな生徒が増えてしまったんだと思います。例えば、「This is a pen.」「Is she a girl?」みたいな、およそ使わない英語を教えていたからダメなんだと思うんですよ。だから、英語は使える実技科目なんだということを分かって学習するべきです。

日本の企業を例にあげても、日産、資生堂、楽天のように、社内公用語を英語とする企業が増えてきています。英語が嫌いでも、就職して企業に入ったら英語を使わなければいけないという事態は、近い将来やってきます。

ただし世界には、アメリカ英語でもイギリス英語でもない「英語」がたくさん存在します。だから、ネイティブの英語を話さなくてもいい。「ジャパニーズイングリッシュ」でもいいから、自信をもって大きい声で話して欲しい。これが、私達日本人が目指すべき国際人としての1つの姿ではないでしょうか。したがって、これからの英語授業に必要なことは、「ジャパニーズイングリッシュ」でもいいからとにかく英語を使い、英語を使う楽しさを教えることだと思います。

Q. 新テストの発表を受けて、今後、生徒にどのような英語4技能対策の進路指導を行っていこうと思っているのかお聞かせください。また、今後、他の関西の高校はどのような対応をしていくと思いますか?

A. まず、文科省が学習指導要領で示した、オールイングリッシュ、アクティブラーニングの授業を今後ますます展開していくわけですから、教壇に立つ者が後退することがあってはならないと思います。教科書も英語4技能をより意識したものに変わってきており、英語での授業を行なっている先生がおそらく6割以上だと思います。教師が授業で英語4技能を教えていくこと、生徒に英語4技能試験をどんどん受験してもらうという動きは、今後もっと活発になってくると思います。

既に現時点で、多くの大学が英語4技能試験を入試に利用しています。一般入試以外にも、AO入試や公募制推薦入試でも英語4技能試験が利用されています。実際に私の生徒にも、これを利用して大学に進学した生徒が大勢います。これからは、一般入試にもこの英語4技能試験を活用するという波が押しよせてきますので、私達は生徒に英語4技能試験を受験してもらうことを推奨すべきだろうと考えています。

他の関西の高校の先生方とは、英語教育についての多くの議論を重ねています。先生方の中には、全国高等学校校長会の意見書提出等の反対もあるので、入試で英語科目を4技能化する大学数に歯止めがかかるのではないかという懸念があることも事実です。一方で、大半の先生方が、従来のやり方ではダメだと感じています。黒板を使って授業をやるのではなく、アクティブラーニングのように使える英語を教えることに軸足をおくべきだと考えている先生方が多くいるように思います。 

Q. 2020年から大学の判断で採用する試験を選択できるようになりますが、大学にどのような判断を求めますか?

A. 各大学の入試問題を分析してみると、その大学が目指す英語教育の将来構想が垣間みえてきます。英語は世界共通語であり、今後就職したのちに使う可能性が非常に高いものです。学生も、企業も、実際に使える英語を大学で学べることを求めていると思います。2020年以降の入試についても、大学の合否を決める目的で英語の試験を課すのではなく、大学に入った学生をどのような形で世の中に送り出したいかを考えて、大学入試に取り組んでいただきたいです。例えば、「うちの大学を卒業した学生は英語4技能試験の資格・検定を持っており、使える英語力を持って社会に出ていくんですよ」などということを大学側はアピールしていくべきだと思います。大学入試は、「うちの大学はこれからこういう英語教育をしていくんだ!」ということを示すファーストステップにしていただきたいです。

そのためにも、大学側が入試で英語4技能試験を課すことは必然となってくるのではないでしょうか?  

~取材後記~

今回の取材を通して、長年教育現場で活躍してこられた藏野さんだからこそ分かる日本の英語教育の問題点が見えてきました。そして、それをどうにか教育現場から変えようという思いがひしひしと伝わってきました。

英語は入試に合格するための受験科目ではなく、世界中で使える武器であるということ。この認識を一人ひとりもつことが、日本人が国際人として今後活躍してために必要になってくるのではないでしょうか?

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