【どう変わる英語教育】〜第3回〜小学校の英語教育はどのように変わるのか

 第3回 小学校の英語教育はどのように変わるのか 

第2回の『英語教育はどのように変わっていくのか』では、小学校の英語教育を含めた英語教育がこれからどのように変わっていくのか、その概要を見ました。

今回は、3・4年生を対象とする「外国語活動」と5・6年生を対象とする「外国語」との比較を中心に、新しい小学校の英語教育の中身をもう少し詳しく見てみましょう。

「教科」になる小学校英語

2018年度から一部の小学校では新しい学習指導要領の先行実施が始まります。(すべての小学校が実施するのは、2020年度からです)このタイミングで、従来5・6年生を対象に行われていた「外国語活動」は3・4年生に繰り上げられ、5・6年生では新たに教科としての「外国語」が必修となります。(いずれも「外国語」となっていますが、その内容は「英語」です)この変更は、単に英語の授業の開始時期が3・4年生に繰り上がるということではなく、「教科としての英語」が小学校でも始まるところにこそ意味があります。

学校の教育内容を定めている学習指導要領では、小学校で扱う教育内容は、現在次の2つに区分されています。

①各教科:国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭、体育
いわゆる「教科」と呼ばれているもので、各児童の指導結果を記す公的記録である指導要録に学習の結果が「評定」(小学校の場合は1~3の3段階評価)で記載されます。

②その他の教育活動:道徳、外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動
その他教育活動の過程や結果は「記録」(文章等による記述式)として記載されます。つまり英語が教科になるということは、「到達すべき具体的な目標」が定められ、それに対してどれくらい近づけたのかを段階的に(数量で)評価するようになるということを意味しています。

小学校の英語で到達すべき目標とは?

「慣れ親しむ」ための外国語活動と「できるようになる」ための外国語

新しい学習指導要領では、「外国語活動」の目的は「外国語を用いたコミュニケーションを図る素地となる資質・能力」を育成することに、また「外国語」の目的は「外国語を用いたコミュニケーションを図る基礎となる資質・能力」を育成することに、それぞれあると書かれています。一見すると同じ文章のように思えますが、前者が「素地」、後者が「基礎」と言う部分に違いがあります。

 

英語教育はどのように変わっていくのか』でご説明したように、これからの英語教育では、これまでのような「読む」「書く」中心の英語教育から、「話す」「聞く」を中心として「読む」「書く」を加えた英語の4つの技能をバランスよく育てていく方向に転換することを目指しています。それを実現するためには、「話す」「聞く」ことに十分な時間をかける必要があります。

母語(日本人の場合は、日本語)を習得する場合もそうですが、新たに言語を習得するときはまず「聞く」ことから始まって、それが「話す」「読む」「書く」へと発展していきます。確かに日本語も漢字が渡来するまでは文字はなかったわけで、言語の本質は音にありますから、音による言語行動という意味で「聞く」「話す」がより基本になることは理解できます。このように、言語を習得するときは「聞く」⇔「話す」の繰り返しが基礎となって、そこで学習した音声としての言語を後に文字と結びつけることで「読む」⇔「書く」が可能となります。

さらにここで「話す」ことができるようになるためには、相当量の「聞く」経験が必要です。言語には特有の音があります。日本語の場合は母音が5つですが、英語には母音だけで20前後もあります(数え方により異なります)。つまり英語には「日本語には存在しない音」がありますので、英語の音を聞き分けられるようにならなければ、自分で発音することもできません。また語彙や言い回しなどについても、様々な場面、様々なケースで話される言葉を「聞く」経験を通して、「これは、こう言うんだ」「こんなときは、こう表現するんだ」という気づきを積み重ねながら多くの語彙と使い方を体験的に学ぶことで、初めて自らの思いや考えを「話す」ことができるようになるからです。

このように相当な時間をかけて、まずは「聞く」。そしてそこで学んだことを活かして「話す」活動が、英語習得のすべての土台になります。これが「外国語活動」の目的で、これらは「経験」を通じてしか身につかない技能ですので、「慣れ親しむ」ことが大切です。

次いで、「外国語活動」で身につけた「聞く」「話す」技能を土台にして、「読む」「書く」技能へと発展させるのが「外国語」の目的となります。ただし、小学校5・6年で扱う「読む」「書く」は、「聞く」「話す」活動で慣れ親しんだ語彙や表現を「読む」「書く」ことが「できるようになる」ことが目標です。したがって、そこでは一定の知識と技能の習得が目標となりますが、発音や表記の規則を体系的に学ぶところまでは目指しておらず、未修の語彙を読んだり書いたりすることはありません。

中学英語への円滑な接続を図るための「外国語」

このような目的で再スタートする小学校の「外国語活動」と「外国語」は、実は現在小学校で行われている「外国語活動」の成果が中学校の「英語」にうまく活かされていないという反省から、変更になったという事情があります。

小学校で英語に「慣れ親しむ」ことで英語に対する興味や関心を高め、英語を学ぶ楽しさを感じることができるようになった子どもが、中学校に進むと一気に体系的な知識が中心となる「英語」の授業となるために、かえって興味や楽しさを失ってしまう傾向が出てきたのです。そこで、同じ小学校のうちに両者をつなぐ英語教育を行う方が効果的という考えから、「外国語」という教科を新たに設置することにしたのです。したがって、小学校の「外国語」では一定の知識や技能を習得して「できるようになる」ことが目的になりますが、それはこれまで中学校でやっていたことを単純に小学校に繰り上げるということではなく、従来中学校で扱っていた内容を一部含みながらも、現在は欠けている中間的な教育(本格的な英語学習への準備教育)を新たに導入するところにこそ、今回の変更のねらいがあります。

(第3回 おわり)

第4回:英語教育改革に向けた課題

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