本記事は「全国学力調査(中3英語)の結果が暗示すること」第4回の続きです。前回紹介したモチベーションを上げるために必要な2つの鍵をおさらいしつつ、今の日本の若者のモチベーションに関する考察を見ていきましょう。
モチベーションの条件その①「主観的価値」
英語にかかわらずすべての教科の学習の中で高めていける価値 (学習経験の質)
学習すること自体に意味を感じる「内発的な価値」
学習の達成や成果に対して感じる「達成価値」
英語学習がどのような場面で役立つのかに関係してくる価値 (英語学習の価値)
得られた成果が他の課題の達成にも役立つと思われるときに感じる「道具的価値」
モチベーションの条件その② 行動化へのスイッチ=「予期」
よいゴールイメージを描けるかどうかという一種の「楽天度」と関係している予期
よい結果が得られると予測できる「結果の予期」
ゴールまでのプロセスを順調に進めるだろうと信じる「自信度」と関係している予期
学習自体が順調に進むと予測できる「効力の予期」(自己効力感)
以上のことを数式的に表わしてみると、 以下のように書けます。f(x)とは、xの大きさによって変化する関数という意味です。∝は両辺が比例関係にあることを表わす記号です。
モチベーションの大きさ∝ f (学習経験の質)×f (英語学習の価値)×f (楽天度)×f (自信度)
日本の若者のモチベーションの現状
モチベーションの大きさを決める重要な変数である「英語学習の価値」「楽天度」「自信度」について、最近気がかりなデータが発表されています。
海外への関心が低い日本の若者
まず、英語を学ぶことが先々何かの役に立つだろうと考える「英語学習の価値」に関して、2019年6月に国立青少年教育振興機構から「高校生の留学に関する意識調査報告書-日本・米国・中国・韓国の比較-」という調査結果が発表されました。
この調査によると、日本の高校生は他の国に比べて、内向き志向が強く、外国への関心も低いという特徴があり、さらにその傾向は以前よりも強くなっているというものです。言葉の壁のある外国への留学や生活よりも、日本国内の方が暮らしやすいと考える高校生が多いというのです。
なお、もし仮に留学するならば、その目的は主に「語学の習得」のための短期(1年以内)の留学であり、学位や資格などの取得を目指す高校生は少数です。
この結果からは、日本の高校生(若者)は主に国内に目を向けており、英語を使って国内あるいは海外で自分の可能性を広げようという発想はあまり見られないことが考えられます。日本社会が今後グローバル化を進めるとしても、日本特有の地理的・言語的環境を考えるならば、国内だけを見ているようでは英語を使うメリットはあまり大きくないのではないでしょうか。したがって、「英語学習の価値」も国内におけるメリットは、たとえば大学入試での必要性などといった限られた局面でしか感じられない可能性があります。
出典元:国立青少年教育振興機構『高校生の留学に関する意識調査報告書-日本・米国・中国・韓国の比較-』
自己肯定感が低い
2つ目のデータは、これも2019年6月に内閣府から発表された「子ども・若者白書」です。この報告書は、7か国の満13歳から満29歳までの男女を対象に実施したインターネット調査の結果にもとづいています。
この白書で気になったことは、日本の若者は諸外国の若者と比べて、自分自身に満足していたり、自分に長所があると感じている者の割合が最も低く、自分に長所があると感じている者の割合は平成25年度の調査時より低下しているという点です。
また、「政治に対する関心」「社会に対する関心」が低く、「異文化の理解力・対応力」にも自信がないという結果が出ていますが、これは「留学に関する意識調査」の結果とも符合しています。「自分に満足している」は「自己肯定感」に、「自分には長所がある」は「自己有能感」にそれぞれ関係しており、そのいずれもが他の国に比べて低いということです。
出典元:内閣府『子供・若者白書』
まとめ
今回は、若者の意識に関する複数の調査結果から、社会のグローバル化に逆行するような子どもたちの意識や英語学習に対するモチベーションに関する問題点を取り上げました。次回はまとめとして、これからどのような方向に向かえばいいのかについて、考えてみたいと思います。続きは以下をクリック▼