全6回シリーズでお送りしている「全国学力調査(中3英語)の結果が暗示すること」では、これまで第1〜3回にわたり2019年の調査結果について見てきました。
今回の調査結果からは、中学3年生の一定の英語力は認められるものの、従来から指摘されていた「発信型」の英語力には多くの課題があることがわかります。つまり、「発信型」こそを改善するために始まった現在の英語教育改革の成果は、今のところあまり見られないということです。
より良い英語教育に向けて
今回の調査結果は、今後どのような影響を及ぼすのでしょうか。既に取り上げた分析にもあったように、改善策の1つとして「指導者」がもっと良い英語教育を実践しなければならないという主張につながっていくと考えるのが妥当ではないでしょうか。
足りないのは「指導される側」視点
もちろん教育のことですから、指導が大切なのは当然です。しかし、教育には「指導する側」と「指導される側」が存在します。どちらか一方だけで成り立つものではありません。その意味で、これまでの「全国学力調査(中3英語)の結果が暗示すること」シリーズ記事で取り上げてきた分析やそこから予想される指導に対する主張には、決定的な欠陥があります。それは「指導される側」、つまり子どもたちの視点が欠落しているということです。
指導側の充実に加え、生徒の英語学習の意欲を高める必要があるとして、「授業を実際のコミュニケーションの場面とする」「生徒の関心に応じた話題を取り上げる」「学習成果を適切に評価することで、学習意欲の向上を図る」などの指針があげられています。しかしこれらは既に散々議論され、にもかかわらず一向に改善されていないことです。このような表層的かつ羅列的な指針で、現在の状況が改善されるとはとても思えないのです。
英語教育のカギは原動力(モチベーション)
フランスのある哲学者は以下のように述べています。
教育の本分は、原動力を生まれさせることにある。出典元:シモーヌ・ベイユ「根をもつこと」(岩波文庫 2010年)
教育は「何を身につけさせるか」を問題にする以上に、「学びに向かう意欲・動機づけ」こそが重要だという指摘です。この哲学者はまた、原動力を持たせることなく学習に向かわせるのは、「ガソリンを与えずアクセルを踏み続けること」だとも言っています。ガス欠の車では、いくらアクセルを踏んだところで、微動だにするはずもありません。
原動力(モチベーション)を生むのに必要な2つの鍵
それでは、英語学習の原動力はどのようにしたら生まれてくるのでしょうか。学習理論によると、学習の原動力(モチベーション)を呼び起こすためには、以下の2つの要素が必要だそうです。
① 学習に対する価値意識
学習者自身が学習に対して感じる「主観的価値」のことを指します。
学習すること自体に意味を感じる「内発的な価値」
学習の達成や成果に対して感じる「達成価値」
得られた成果が他の課題の達成にも役立つと思われるときに感じる「道具的価値」
② 行動化へのスイッチ
学習を通して得られる2つの「予期」のことを指します。
よい結果が得られると予測できる「結果の予期」
学習自体が順調に進むと予測できる「効力の予期(自己効力感)」
学習者が学習に対してより多様でより強い主観的価値を感じ、学習自体の効力を予期することができるとき、学習に対するモチベーションは高まり、主体的な学習への契機となります。指導者は明確な目標や意義を示すことで学習者の「主観的価値」や「予期」を覚醒させ、主体的に学習を開始させることが重要な役割となります。また一旦学習が始まれば、適切な支援やフィードバックで学習の継続を促すことがもうひとつの重要な役割です。
つまり、学習は指導者が「何を教えるか」によってではなく、「学習者にどのように関わるか」によって左右されます。学習の原動力は学習者自身の中に「生まれる」ものであり、外から「与える」ものでも、「注入できる」ものでもありません。指導者はあくまで学習者自身がその内に原動力を生み出し、育てていくのを外から手助けする存在なのです。
まとめ
本記事では、学習とモチベーションの関係を取り上げました。次回は、学習のモチベーションの条件となる「主観的価値」と「行動へのスイッチ」について、英語に即して考えてみましょう。続きはこちらをクリック