第2回:東京大学の「英語民間試験活用方針」が今後の大学入試に及ぼす影響とは?

前回は東京大学が発表した英語民間試験活用方針ついて2つのポイントをあげ、その影響についてご説明しました。まだ第1回をお読みでない方は、下記のリンクからぜひご覧になってください。

前回の記事
第1回:東京大学の「英語民間試験活用方針」が今後の大学入試に及ぼす影響とは?

1. 民間試験活用はひとつの選択肢

2. 活用するが判定には使わない

今回はその続きとして、さらに2つのポイントについて見ていきます。

大学入学の目安はA2レベル

3つめのポイントとして、出願条件をCEFR* のA2レベル以上とした点があげられます。CEFR のA2レベルとは、東京大学の発表でも言及されていたように、英語教育の改革を盛り込んだ政府の第3期教育振興基本計画(2018年6月15日決定)の目標設定(高等学校卒業段階で、A2レベル相当以上を達成した高校生の割合を5割以上にする)に準拠したものです。5割の高校生という数値は、現在の高等教育進学率50%強とほぼ符合します。

ところが文部科学省が実施した2017年度の「英語教育実施状況調査」によると、A2レベル以上の英語力が認められる高校3年生は全体の39.3%にとどまっています。この割合は徐々に伸びていますが、英語教育改革開始以後もそれほど大きな伸びとはなっていません。

今回、東京大学が「大学入学の前提となる英語の基礎力」をA2レベル以上としたことで、今後の大学入試における英語のボーダーラインがひとつの共通的な指標で示されました。(これまではセンター試験の得点や業者模試の偏差値などで比較されていましたが、いずれも試験ごとに変動する数値であって、すべての受験生に共通する指標とはいえませんでした)このようにすべての大学入試で共通して測ることができる指標ができたことや入学の前提となるレベルが明示されたことで、これからは高校での学習到達目標を明確に意識するようになる可能性があります。

*CEFRについては、「CEFRとは?」を参照してください。

 


「調査書」がクローズアップされる

4つめのポイントは、英語の能力証明の方法を民間試験の成績だけでなく、他の方法も認めたことの影響のひとつとして、特に高等学校が作成する「調査書」の役割がクローズアップされると思われる点です。

「調査書」は、各生徒がどのような教科・科目を履修し、その成績がどうであったのかや、学習や学校生活でどのようなことに取り組み、どのような成果をあげたのかなど、在学中の学習や生活全般について記載した書類で、就職や進学の際に選考の資料として活用されます。とはいえ、大学入試(特に一般入試)ではその内容を詳しく評価することはなく、主に履修内容や卒業(予定)の確認程度にしか活用されていません。

しかし、今回東京大学が調査書を民間試験の成績と同等に扱うとしたことで、一般入試でも非常に重要な書類となります。

2021年度以降の一般入試の新しい大学入試方針については、大学入学共通テストや英語の民間試験活用などがもっぱら話題の中心となっていますが、実はこの「調査書」の書式も新しい大学入試に対応するため大きく変わることになっていて、いま高等学校の先生方はその対応に頭を悩ませているところなのです。

先生方の頭を悩ませているのは、現在の調査書は記載事項のスペースが決まっていて、必然的に記載する内容や量が限られていますが、新しくなる調査書では「多面的・総合的評価」を行うために「意欲等を含めた学力試験によっては測ることのできない能力や態度」までを記載すること、学習の過程を細かに記録するポートフォリオなどを活用して「結果だけでなく、過程を含めた評価」を行うこと、また記載スペースに制限がないためいくらでも記載できることなどから、正確・詳細に評価し、それを調査書を記載しようとすると膨大な事務処理量が予想されることです。

これに加えて、今回の東京大学の方針は、新たに「英語4技能の到達レベルの判定」を調査書に求めるものです。その判定が生徒の大学受験を左右することになるわけですから、先生方が感じるプレッシャーは小さいものではないでしょう。CEFRのランクは6つに区分されていて、それほど厳密な区分とはいえないにしても、一方でそれを測定するために相当の費用を要する民間試験があるのですから、レベルの判定は簡単なことともいえません。


今回の方針はとりあえず2021年度入試に限った処置となっていて、2022年度以降については今後の文部科学省や大学入試センターの対応を見て検討することになっています。東京大学の今後の動向、そしてその影響を受けるその他の大学の動向はどうなるのか。この問題に関する議論は、まだしばらく続きそうです。

(おわり)

この記事を誰かに共有する