第1回「大学入学共通テスト」試行調査の目的

英語は共通テストと民間試験の併用に

現在の大学入試センター試験は、2020年度(2021年1月実施)から新たな試験「大学入学共通テスト」(以下「共通テスト」)に衣替えします。この共通テストは、これまでのセンター試験では測ることが難しかった「思考力・判断力・表現力」なども試すため、様々な改善が検討されています。

英語の試験については、英語教育の4技能化に応じて試験も4技能化します。当初は既に実施の実績がある民間の資格・検定試験に切り替える計画でしたが、受験生や大学の混乱を避けるため、当面は共通テスト(リーディングとリスニングの2技能試験)と民間試験(4技能試験)を併用することになりました。

この結果、共通テスト自体が4技能化することはなくなりましたが、共通テスト全体の方針である様々な改善については英語の試験でも行われる予定です。では、この改善によって、共通テストの英語はどのような内容の試験になるのでしょう。

試行調査のねらい

大学入試センターは2018年2月に実施する試行調査に先がけて、1月に「大学入学共通テスト導入に向けた試行調査(プレテスト)の趣旨について」という文書を公表しました。そこには、共通テストの英語試験のねらいや試行調査で調べようとしているポイントについて、次のように記されています。(太字は筆者による)

筆記(リーディング)

筆記(リーディング)については、テキストを読み事実や意見等を整理する力テキストの構成を理解する力テキストの内容を理解して要約する力等を問うことをねらいとし、問題の構成や内容について検証を行います。

なお、英語の資格・検定試験の活用を通じて「聞くこと」「読むこと」「話すこと」「書くこと」の総合的な評価がなされる方針であることを踏まえ、筆記(リーディング)の問題では「読むこと」の力を把握することを目的とし、発音、アクセント、語句整序などの問題は出題されません。

リスニング

リスニングについては、複数の情報を比較して判断する力や、議論を聞いて要点を把握する力等を問うことをねらいとし、問題の構成や内容について検証を行います。音声については、アメリカ英語以外の読み上げ(イギリス人や英語を母語としない人による読み上げ)も行います。また、資格・検定試験における英語のリスニング試験における一般的な在り方を踏まえ、読み上げ回数についても検証(受検者を二つのグループに分け、全て2回読みのもので実施するグループと1回読みと2回読みが混在するもので実施するグループを比較)を行います。

新たな出題形式として、当てはまる選択肢を全て選択させる問題なども出題されます。(一部抜粋)

このように、試行調査の英語試験では「思考力・判断力・表現力」を重視する新しい学力観と、併用する民間資格・検定試験との統一性や役割分担を前提に様々な「テスト(試行)」を行い、その実施結果をもとに最終的な試験問題の内容や形式を検討することになっています。

形式上の変化

今回の試行調査の問題については、これまでのセンター試験と比べて、形式面で以下のような変化が見られます。

筆記

①問題種別の変更。
民間4技能試験活用にともない、Speaking・Writing的な設問が削除された(従来の第1問・第2問)。設問数は減少(51⇒34)。これは知識を問う小問が削除され、読解問題となった影響です。

② 文章読解問題では、実用的な情報読解(情報収集)問題の比重が増大した。

③ 多様な場面・素材が採用された(①にも関連)。

④ 問題で扱う情報量(文章・図表の量)が増大した。

⑤ ネット関連の素材が急増した。

リスニング

①大問数が増加した(4題⇒6題)。

② 多様な場面で問題を設定している。

③ 一般的な英語聴取力を問う問題(会話中心)で、実用性の高い英語聴取力(議論・講義・自己紹介)を重視している。

④ 読み上げ回数や設問数の適切数を検証している(A・Bグループ分けで対照実験)。

⑤「学びのプロセス」を意識した設定(授業・講義)が目立つ。

以上のように、今回の試行調査の問題は予め提示されていた方向性に沿った出題でした。「国語」の問題でも見られた傾向ですが、一般的な言語能力を試すというよりも、多様なテキスト(図表等を含む)を用いて情報の収集・選択・整理などの能力を英語で試す内容が中心となっています。

 理解の基本に英語力(特に、語彙力や会話力)があるのは当然ですが、内容を「深く理解する」というよりも、多量の情報を短時間で処理する能力が問われる問題構成となっています。


第2回:試行調査の結果から見えてくるもの(その1)

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