第2回 新しい高大接続と英語4技能
大学入試改革の4つのポイント
2014年12月の中教審答申「高校教育・大学教育・大学入試の一体的改革」では、今後も進行する少子化により大学入試の選抜機能は低下すると予測されることから、大学入学者の決定についても「選抜」ではなく高校と大学を「接続」するという観点からとらえる必要があるとして、従来の「大学入試」に代わって「高大接続」という表現を用いています。この答申を受けて、新しい高大接続の具体的な在り方を検討した「高大接続システム会議」は2016年3月に「最終報告」を公表し、以下の4つのポイントをあげています。
① 高校教育・大学教育・大学入試の一体的改革
② 高校教育の改革:高校教育の質的保証の手段として「高等学校基礎学力テスト」(現在は「高校生のための学びの基礎診断」と改称)を実施
③ 大学教育の改革:3つの方針(アドミッションポリシー・カリキュラムポリシー・ディプロマポリシー)に沿った一体的改革
④ 大学入試の改革:「新たなルールづくり」(入試区分・試験期間等の見直し)、共通テストとして「大学入学希望者学力評価テスト」(現在は「大学入学共通テスト」に改称)を実施
そして、新しい入学者選抜の基本理念として、
① 「1点刻み」「一発勝負」の入試の改善:段階的評価、複数回実施
② 入試に向けたエネルギーを教育に:センター試験の簡素化
③ 知識・技能+思考・判断・表現力の評価:共通テスト問題改善(記述式導入・選択式改善/合教科・科目型、総合型問題の導入)、個別試験改善(多面的評価)などの検討
④ グローバル化対応:英語4技能化の方法として外部資格試験との連携・活用
といった具体的な指針が示されました。
英語4技能はこのように、新しい高大接続においても重要なひとつの柱として位置づけられているのです。
大学入試全体で英語4技能化を
このような考え方にもとづいて、文科省は新しい高大接続に移行する2021年度(2020年〜2021年春に行われる)大学入試の大枠を定めた「大学入学者選抜実施要項の見直し(予告)」を2017年7月に公表しました。これによると、新しい入試システムでは現在の入試区分を変更(「一般入試」⇒「一般選抜」、「AO入試」⇒「総合型選抜」、「推薦入試」⇒「学校推薦型選抜」にそれぞれ変更)して、各区分における入学者選抜の特性をより明確にするほか、受検生に英語の試験を課す場合には各大学は4技能を総合的に評価するよう努めることとしています。(これはすべての入試区分について該当します)
大学入学共通テストと民間資格・検定試験の併用
これと同時に発表した「大学入学共通テスト実施方針策定に当たっての考え方」では、大学入学者選抜においても4技能を適切に評価するため、共通テストの枠組みにおいて民間事業者等による資格・検定試験を活用することとし、 以下のような実施方針を示しています。
① 試験内容・実施体制等が入学者選抜に活用する上で必要な水準及び要件を満たしている資格・検定試験をセンターが認定する。
② 試験結果及びCEFR*の段階別成績表示を要請のあった大学に提供する。
③ 学習指導要領との整合性、実施場所の確保、セキュリティや信頼性等を担保する。
④ 認定試験の実施団体に対し共通テスト受検者の認定試験検定料の負担軽減方策や障害のある受検者のための環境整備策を講じるよう促す。
⑤ 活用の参考となるようCEFRの段階別成績表示による対照表を提示する。
⑥ 高校3年の4月~12月の間の2回までの試験結果を各大学に送付する。
⑦ 共通テストの英語試験については2023年度までは実施し、各大学の判断で共通テストと認定試験のいずれか、又は双方を選択利用することを可能とする。
*CEFR:「(外国語の学習のための)ヨーロッパ共通参照枠」の略。異なる文化や歴史をもつ多数の国家からなるヨーロッパの統合に向けて、欧州評議会が開発した言語学習のため参照枠。この参照枠にそって学習状況を評価することによって、異なる言語間でもその習得度を比較することができる。
また、各大学は認定試験(共通テストの枠組みにおいて活用する外部試験を当初は「認定試験」と称していましたが、試験自体の公的な認定と誤解される恐れがあるため、現在は「参加試験」等と称しています)を活用することや個別試験により英語4技能を総合的に評価するよう努めることとしています。
民間資格・検定試験の活用をめぐる混乱
このように、2020年度から2023年度の間に実施される大学入学共通テストでは、従来のように英語の試験(ただし、リーディングとリスニングの2技能のみ)を実施するとともに、同テストの枠組みの中で民間の4技能資格・検定試験も活用し、そのどちら(あるいは、両方)を活用するかどうかは各大学の判断に任せるということになりました。(現状、2024年度以降については未定です)
そもそも文科省と大学入試センターは、現在の大学入試センター試験が大学入学共通テストに移行するタイミングで、英語の試験をすべて民間試験に委ねる心づもりだったのですが、これについては利用者である大学や受験生を指導する高校側から強い反発を受け、暫定的に2つの英語テストを併用することになったものです。本来は大学入試センターが大学入学共通テストで4技能の英語テストを実施すればよかったのですが、ライティングとスピーキングのテストについてはこれまで作成したことがなく、またこの2技能のテストは実施や採点で人手と手間が膨大となるため、自ら作成・実施することを見送ったために大きな混乱を招く結果となりました。
(本記事は、SAPIX YOZEMI GROUP発行『大学入学共通テストA to Z』掲載の記事を一部加筆・修正したものです。)
第3回:対象となる外部検定試験の概要