2015年夏に『Jアプローチ:「4技能時代」を先取りする凄い英語学習法』(IBCパブリッシング)が出版さました。著者の米原幸大先生に、今の日本の英語教育の課題や、大学入試の4技能試験の導入についてインタビューしました。
米原幸大先生
・英語講師
・Jアプローチ普及協会代表
・一般社団法人使える英語普及協会常任理事
・セントラルミズーリ大学大学院卒(英語教授法)
・サウスカロライナ大学博士課程在学(言語学)
・元コーネル大学客員講師
著書:『完全マスター英文法』(語研)
米国の日本語教育に学ぶ新英語教育』(大学教育出版)など。
目次
1990年代の「英語の語学留学ブーム」について
日本では、1990年代に英語の語学留学ブームがありました。海外に語学留学をする日本人が急増し、どこに行っても日本人がいました。特に、ロサンジェルスなどの主要都市ではクラスの生徒のほとんどが日本人だったなんて語学学校もありました。そして、北米の大学がこの日本の英語ブームに便乗して、日本に分校を建てに進出してきました。
現在残っているのはテンプル大学日本校くらいでしょうか。他の大学は撤退してしまいました。失敗の理由は、もともとの英語力が低い日本人学生は、アメリカの大学の授業の英語インプットすることができなかったからです。
現代の「グローバル人材育成ブーム」について
現代は「グローバル人材育成」ブームで、クラスを英語でやっている日本の大学が増えていますが、それって北米の大学の日本分校とやっていることは同じですよね。やはりもともとの英語力が低い日本人学生はついていけません。過去の失敗から学ばないで、「グローバル人材育成」云々が目立ちますが、過去の焼き直し的プログラムが多すぎます。
英語圏への語学留学も、日本母語者はうまくいっていません。英語プログラムのネイティブの先生は日本語と英語のズレを知らないし、テキストも当然それらの重要ポイントはカバーしてません。要するに、英語の洪水の中でポイントが分からないまま生活をすることになります。
英語圏の大学は英語で講義をするので、TOEFL iBTなどのスピーキングを含んだテストで事前に英語力をチェックします。講義を理解できる英語力がある学生だけが入学できるのです。
2000年代の英語教育の取り組みについて
2000年代はスーパーイングリッシュランゲージハイスクール(SELHi)が指定されました。取り組みの大きな目的のひとつは、恵まれた英語教育環境を現場に与えて、実践的な教材やカリキュラム、ティーチングメソッドの開発を行い、他の高校にも波及させていくというものです。しかし結果、開発されたものは共有されず、生徒の英語力も「スーパーイングリッシュ」から程遠いものでした。
高校の英語教育を変えることが難しいことは、この例からでも明らかです。ネイティブの先生をもっと導入すれば良い、英語で授業をすれば良い、といった単純なものでは決してないと思います。問題は、ネイティブの先生を使うにしても、英語で授業をするにしても、実効性のあるやり方であるかどうかでしょう。
「Jアプローチ」について
Jアプローチはもともと「ジョーデン・メソッド」と呼ばれていました。コーネル大学名誉教授のエレノア・ジョーデン博士が開発した、英語母語者にとって日本語などチャレンジングな外国語を習得するのに使われている学習法です。北米では高校や大学で使われており、ハーバード大学などの有名校もJアプローチを使っています。
私は、コネール大学などアメリカの大学生に対して「ジョーデン・メソッド」を使って日本語を指導していました。日本語は難しく、学ぶインセンティブが少ないにも関わらず、アメリカの学生は3年間で、日本語を使用し議論できるレベルに達します。「ジョーデン・メソッド」は日本人が英語を学ぶ時にも応用できると思い、ジョーデン博士のJを取って、Jアプローチとして日本での指導を開始しました。
Jアプローチは、ネイティブの使い方からターゲット言語の使い方まで、科学的根拠があり非常に合理的で、実績も申し分ありません。アメリカ発の成功例を参考にするのが、日本の英語教育を発展させていく1番の近道だと思います。
言語プログラム、重要な3つの要素
言語プログラムには重要な要素が3つあります。
①目標設定
②目標に到達するためのカリキュラム(教材、クラス活動、宿題などのクラス外活動)
③評価(テスト、入試)
この3つは一体となっています。定期的な評価でカリキュラムが上手く機能しているか分かり、具体的な問題点も分かります。問題点が分かれば、教え方などカリキュラムの改良を行えます。
目標設定は、大まかな形として学習指導要領にあるように「英語の4技能の習得レベルを上げること」です。(その目標のリアリティー不足はここでは触れません)英文読解中心ではなく、スピーキングの評価も行う必要があります。一方、究極の評価であるセンター試験や大学入試はリーディングが中心で、現状はスピーキングの評価がありません。英語のクラスやセンター試験のタイトルが「コミュニケーション英語」や「英語表現」となっていても、です。英語教育の「①目標」とその「③評価」が著しく異なっているので、その中間にある「②カリキュラム」が大混乱を起こしているのです。
大学入試にスピーキングを導入する意義
私は大学入試への4技能試験の導入には大賛成です。スピーキングのクラス活動を何年行っても、入試による評価をしないままでは生徒の英語は片言のままで終わりだからです。センター試験や大学ごとの英語入試にスピーキングを入れ、スピーキングの入らない英語の試験は廃止すべきだと思います。スピーキング抜きの試験も受験可能にすると、ほとんどの生徒はスピーキング込みの試験は受けない、よって学校や塾は今まで通りリーディング中心に教えていても構わないということになります。
こういった大掛かりな変更は途中でぽしゃる可能性が大きいと思います。インフラ整備の困難さや「現場の混乱」を理由に、スピーキング導入を断念するか良くて先延ばしされるだけかもしれません。スピーキングの英語教育に力を入れている韓国でさえ、大学入試(NEAT)にスピーキングを導入する試みに失敗しました。
東大に英語4技能試験を導入してほしい
多くの識者も言っていることですが、日本の英語教育を4技能型に変えるための実効的な方法は、東大に英語の4技能試験を導入することです。TOEFL iBTのような外部試験でも構いませんが。
東大以外の大学ではダメです。たとえばA大学が4技能試験を導入しても、受験生はスピーキングの入試がない大学へ逃げてしまいます。そして、そのA大学の入試にスピーキングが導入されたからといって、高校や塾の英語教育が4技能対策型へ変化するはずはありません。圧倒的な数の大学はリーディング中心の試験を行っているので。しかし、東大の場合はA大学のようにはなりません。東大に何としても入りたい高校生は、スピーキングをテストに課されても頑張って勉強してほぼ必ず東大の試験を受けに来ます。東大の合格率を上げたいと真剣に考え続けている進学校や塾の英語教育にも大きな変化が訪れます。
4技能型外部試験を導入している大学がチラホラ出て来ていますが、一部の学部の一部の定員だったりします。インターの学生や帰国子女には有利ですが、従来型のテストと併用ですので、一般の受験生にはほとんど影響はありません。つまり、高校や塾の英語教育にはほとんど影響はないということです。
スピーキング力の伸びがターニングポイントになる
スピーキング力が伸びれば、韓国や他のアジアの国々がそうであったように、読み書きのスキルのレベルも上がることに気が付きます。読解法がいかに非効率なやり方で、非常に低いレベルの読み能力に抑えられていたことに気が付きます。すると、京大など他大学も東大に追従し、全国の大学に波及します。東大が実際に英語の運用能力の高い生徒を取るために入試改革を行えるかどうかにかかっています。
英語は自分で組み立てられなければ意味がない
日本の英語教育はリーディングに偏重していて、スピーキングの練習をする際もリーディングを基盤とする学習者が多いですね。たとえば音読です。音読は人の書いたものをそのまま読むだけですが、スピーキングの本質は状況に合わせて自分の脳と口を使って英語を組み立てることです。
英語は日本語母語者には非常にチャレンジングな外国語です。我々英語教師でさえ習得には大変苦労します。単に表面的に瞬間的な英作の練習をするだけであれば、理解の浅い分覚えにくく、応用が利きません。アトランダムな数字を覚えるのに近いからです。もう一つの問題は、売れ筋の瞬間的な英作の作業本はおおむねセンテンスが少な過ぎることです。
海外ドラマや映画を見るとわかるように「日常英会話」は相応の込み入った説明の理解が必要です。初級のサバイバルイングリッシュレベルではなく、日常英会話を「目標」とするのであれば、かなりの努力が必要です。たとえば、日本の首都圏の鉄道網は細かく張り巡らせされており、移動の自由度はかなりありますが、その鉄道路線が10分の1になったら途端に移動の自由度は激減します。英語のコミュニケーションの自由度も同様です。限られた英語表現だと、英会話やメールで、しょっちゅう英語表現に行き詰まることになります。
効果的な英語教材の特徴は「瞬間的に英語のアウトプットが出来るもの」「文法の説明の細かいもの」です。こういった骨太の教材を使って繰り返すことが、英語習得の極意です。