横山カズ
同時通訳者(JAL/日本航空)、翻訳家。「スタディサプリENGLISH」(リクルート)等多数の英語教育メディアで英語講師を担当。また全国の中学・高校・企業にて講演活動を行う。
2冊目の著書となる
「英語に好かれるとっておきの方法~4技能を身につける~」(岩波ジュニア新書)
を2016年6月に出版し、Amazonにて『ベストセラー1位』となる。
『最強の英語独習メソッド パワー音読入門』(アルク)著者。
小学生時代にテレビで見た同時通訳者の仕事ぶりに衝撃を受け、完全国内独学で同時通訳者となる。「感情」「スピード」「反復」「集中」の4つの力を利用する「パワー音読(POD)」を提唱。現在は医療、環境、IT、政治等多彩な分野で国際会議及び記者会見で同時通訳を担当する。JALグループ、英語社内公用語化で有名な大手IT企業のスピーキング講師。また、東進ハイスクールでは特別講師として、音読を中心に置いた独自の指導を展開、受験生から強い支持を得る。英検1級、国際英語コミュニケーション能力検定(ICEE)2012年総合優勝。
今回は、留学をせずに同時通訳者になられた横山カズさんに、新著:
「英語に好かれるとっておきの方法~4技能を身につける~」(岩波ジュニア新書)の事を中心に、4技能で英語を学んでいく重要性、日本にいながらにして英語を話せるようになる方法について伺った。
『英語に好かれるとっておきの方法』岩波書店公式HP
あの先生が新書「英語に好かれるとっておきの方法 ―4技能を身につける―」(岩波ジュニア新書)とともに、ベストティーチャーの渋谷オフィスに帰ってきてくれました。
新著「英語に好かれるとっておきの方法」について、著者横山カズ先生に存分に語っていただきました。
前回インタビューはこちらから 完全国内独学の同時通訳者・横山カズの源流「自分を主人公にする英語」
―まずこの本を書いたきっかけを教えてください。
小さいころにテレビで偶然見た同時通訳者のパフォーマンスにあこがれを抱いてしまったんです。言語を瞬間的に切りかえあざやかに通訳する様子に、稲妻に打たれたようなすごい衝撃を受けました。得意なことも自信もなかった私が、生まれて初めて勇気を出して「これをやりたい」と大人に相談したんです。しかし当時はまだ4技能という概念も用語も認知されていない時代でした。ですから“英語を自在に話せるのは恵まれた環境にいる人だけだよ”、と言われ続け、そのたびに心が傷つきました。
変えようのない境遇の差、どうして学ぶ機会が均等じゃないのか、といったことを漠然とながら子供心に感じたものです。自分自身の経験や、生徒さん達との学習で得られた方法論を一度読みやすい本にまとめてみたい、“あの時代にこういう本があれば、こういう先生がいれば、こういう教育があればよかったのに”という思いを書きたい、そう思ったのが著作の原点です。
実は今日は私の誕生日なのですが、何とかその少し前に書き上げる事が出来ました。
―お誕生日おめでとうございます。子供のころに抱いた英語への情熱、それが原動力ですね。
ありがとうございます。
そうですね、つまづいたり転んだりして時間はかかってしまいましたが、自分なりに工夫を重ねて夢を叶えたことも書きたいと思いました。なのでこの本が老若男女問わず英語学習のブレイクスルーの一助になることも私の願いです。
なぜか小さなころから「言葉」が好きでした。当時あまり余裕のない家庭でおもちゃなども家にはあまりなかったんです。そんな状態で、気がつけば言葉がおもちゃ代わりになっていました。そして、自分がきれいだな、とか面白いな、と思った言葉を拾っては自分なりに使って楽しむわけですね。
でも、英語を本格的に勉強しだしたのは大学を卒業してからなんです。大学時代は英語が専攻ではなく、自分なりに何度も挑戦はしましたが挫折の連続でした。特に英語の聞き取りが全くできず、本当につらい思いをしたものです。“お前には英語のセンスがない”と正面から言われたことも何度もありました。それでも色々と工夫していく中で、“これを英語でなんて言うんだろう。僕ならどう英語で表すんだろう?”常にそう考え続けました。
この習慣は今JALで同時通訳をする事となっても続いています。そうすることで“自分自身の英語”すなわち“ほかの誰とも違った自分の本当の個性”も見えてくると感じています。例えばですが、挫折や失敗は英語だけでなく仕事でもありますよね。また失恋もそうですが、そういったネガティブな感情は一番心の深いところに突き刺さります。私はそれを自分の英語習得の燃料に変える事を考えました。
自分の心の深い部分を英語で追いかけると、自分がどのような人間で、物事にどう感じ考え反応するかが見えてきます。ゆえに自分のアイデンティティもはっきりと強く認識でき、自分の中にある物語を英語で楽に表現できるようになっていきます。それもまた4技能習得の近道だと考えます。
心で感じる学習法とは
―そうすると、この本の対象となる読者層は英語学習を始める方々ですか。
まずは中学生や高校生の生徒さん達、そして“英語にもう一度挑戦してみよう!”と決意された大人の学習者の方々です。また、英語を教える仕事をされる方々に一つの参考としていただければ嬉しく思います。
この本の一つのテーマが「1の表現で100のことを言う」となっています。中3~高1程度の文法事項を抑えている方であれば、以前に習ったことを復習しながら楽しめるように作ってあります。
本をパラパラとめくって“面白そう!”と思ったところから読んで頂いても大丈夫です。中で扱ってる例文は教科書などでは出会わない様なものを多く扱っています。思わずSNSでつぶやきたくなるような日常の心の動きが英文になっています。
もう一つは、いま英語に興味ないけどとりあえず開いてみた人でも“これ中々面白いなぁ。ちょっとやってみようかな”と思ってもらえることを願って書きました。“こんなすごい事が、こんなに簡単な英語で言えるんだ!”と思えたなら、それを使ってみたくなるのが人情ですから。
―心から出る声を英語にできるように、というのもまた一つのテーマですね。
ネガティブな言葉は一般的には良いものとは思われないですね。しかし、人間は嬉しかったことよりもつらい経験をよく覚えているものです。生きている時間が長いほどその経験は増えていきます。それらは自分にしかできない生き方によって手に入れた、大事な財産なのだと考えます。
このようなことから私は、無理にポジティブな自分を演じる前に、自分の感情にダイレクトに向き合い、それがネガティブな物であっても英語の上達という、ポジティブな結果と気持ちに導くことを重視します。
上達は必ず自分への自信につながっていきます。自他の違いが見えると、自分が話すべきことも見えてきます。アイデンティティを捻じ曲げて英語を暗記するのではなく、正面から向き合い受け入れてそれを学びのコアにする。どんなテーマなら自分は英語を表現しやすいか、それを知るのも効果があります。
—具体的に言いますと?
英語学習のすべてを自分を主人公にして進めていきます。だから悲しく感じたなら、それをTwitterなどのSNSで英語表現するのもいいと思います。英語の4技能は究極的には1技能、すなわち「思う力」だと私は思っています。
前回のインタビューでも言ったことですが、人間は一説によると一日に10万回も物事を“思って”いるそうです。その3割の3万回でも心の中で英語で思えたなら、あとは声に乗せて伝えればいい。もう一つ、とても重要なのは実際に声に出して話している量の何倍も何十倍も実は心の中で思っている、これが重要なポイントです。話すより思う方が圧倒的に多い。それが英語でできるようにしていきます。
言葉が出てくる根源をどんどん深く掘り下げて追いかけていくといつも自分の情緒に突き当たります。ゆえに英語ではあくまで自分が主人公なんです。日記やツイートでよく使うフレーズはすぐ覚える。なぜならそれはすでに心の中にあったものだからですね。
僕自身、英語を学びながら心で思ってきたことはネガティブが多かった。でも、例えば嫌われてるかも、英語できないかも、これらの不安やひとり言はネガティブで受け身の表現ですね。”I wonder if S V~”で表現できてしまう。英語で“思う力”の中心をなすものの一つで、この思う力があれば、自分が思ったことが瞬間的に英語にして話すことができる“会話の瞬発力”が手に入るわけです。
4技能が有機的につながり合い、回転し始めたら上達の止めようがなくなります。そしてそれは“自分はやれるんだ”という大切な自信につながっていく。他人と比較して負けるとボキリと折れてしまうPrideは、何があろうと何度も何度も立ち上がる自分を信頼できるSelf-esteemへと進化していきます。
心とスコアは追いかけっこ
―では試験の4技能教育者として思う事は何でしょうか?
私は4技能型学習と2技能型学習の二つが対立する概念とは実は思っていないんです。ただこの二つの間には大きな違いがあるんです。
2技能もそして4技能も今は試験の形式が整備され、スコアによる見える化が進んでいます。しかしながら4技能においてはそのスコアだけではなく、自分が主体的に英語を扱って表現できるというある種の全能感があることです。これが自信になるわけですね。
それは資格試験のスコアとは一味違った楽しみと“もっとできるようになりたい!”という内なる欲求を与えてくれます。英語を言葉や能力として伸ばしていくと、結局知識も増やしたくなるのですね。例えば、フィギュアスケートを観ながら「綺麗だね」で終わるのか、「あれきついんだよね、私はあれやってみて凄く大変でちょっと怪我までしてしまってね…」と言えるかどうか。
話してる人に近づければ近づけるほど英語が楽しくなる。そのためにはもちろん一定のレベルまでの文法知識は必要です。日本国内で4技能を身につけるなら、5%が試す場で、残りの95%は自分で準備しておく場、そんな感覚でいいと思います。当然4技能型学習がやりやすい環境が整備されていきつつあるのは素晴らしい事です。でもまた一方で思っている以上に一人でできる事は多いものなのですよ!
―同時通訳者としては専門的な知識も要すると思うのですが。
その時はもちろん専門知識を勉強します。能力として身につけたベースの英語に新たな知識を載せてゆく感じです。先日JALにて同時通訳を今後担当させて頂くことになりました。なので航空関連の用語を勉強しているところです。
ただ一つ確かなことは、同時通訳で必要とされる瞬発力は心と英語をつなぐ自分を主人公にした基礎練習に支えられています。
主人公を、相手のクライアントさんにできるようになると、それは通訳となります。自分の心が分かる様になれば、今度はコミュニケーションの相手の気持ちや心をとらえ、その立場になれる事が目標になります。
―なるほど。では、最後に横山先生にとって4技能英語とは何かを教えてください。
個性・自信・心のニーズが大事ですね。
本の冒頭で「身につくと予定されている」と書いたのですが、英語を身につける過程で自分の今まで気づかなかった個性が見えてくる。つらい事があったりして心が縮こまってるときはむしろ英語も心も大きく伸ばす最高のと機会となります。
自分という人間がある物事に対し何を感じ、考え、どう反応しようとしているか。それは英語でいえば5W1Hの関係詞と基本動詞というシンプルな言葉で表現できる事でしょう。そのアイデンティティを知り伝える具体的な心のニーズに応える手段として私は4技能型学習を位置づけています。
自分に合った英語を身に着けたなら、知識量や点数のみならず、内なる粘り強く折れない自信が手に入ると信じます。その自信は英語に限らず様々な局面において自分を支えてくれ、また夢を実現する手段となると思います。
―カズ先生も次の目標がおありなんですか?
一つ目は英語の4技能の学習が楽しく役立つものであることを、広く知ってもらえるようにしたいということです。
二つ目は4技能型学習の機会が誰に対しても開かれているようになればと願っています。
私自身が経験したよう本来不要であるべき苦労はやはりない方がいいです。
微力ですが、そういった目的のために私にできる事はやっていきたいと思っています。
そして三つ目は、今こうして英語4技能について本を書かせて頂いて強く思うのは、やはり4技能を説いている事を自分の生き方に一致させなければいけないという事です。
そのためにも同時通訳者であり続け、研鑽していきたいと思っています。