【大学入試共通テストと民間4技能試験の活用】~第5回~ 各試験の特徴と活用ポイント

第5回 各試験の特徴と活用ポイント

試験ごとに異なる性格や特徴

対象となる外部試験が様々あるとなると、受験生としてはどの試験を受けるのが有利なのかと考えるのが当然です。しかし、すべての受験生に共通して有利な試験というものは存在しません。それは、各試験がそれぞれ独自の目的と英語観に沿って作成されているからです。したがって、受験生としては各試験の特徴を理解するとともに、外部試験をどのような目的で活用するのかを明確にして、それに応じた試験を選ぶことが大切です。

そのような観点から、各試験の特徴や選択上のポイントをまとめてみましょう。

(1) 受検日程

受験を迎える高3生にとって、日程は極めて重要な要因です。学校の定期試験や学校行事に加えて、私大の多様な入試の影響で高3の夏以降様々な試験を受験する可能性がありますので、それらすべての日程を考慮に入れ、またしっかりした受検準備の時間も組み込まなければならないからです。2回までに制限される受検チャンスを最大限生かす日程づくりが必要です。

(2) 実施会場

受験する側にとって、日程と同様に重要となるのが受験会場です。対象試験一覧にも簡単に記したように、試験によって実施会場の条件は大きく異なります。

都道府県庁の所在地では多くの試験を受検できるでしょうが、そこから離れた地区の受検生にとっては複数回受検することすら簡単ではありません(段階的にレベルを上げたり、受検経験を積むためには事前に複数回受検しておくことが必要です)。会場については、大学入試センターが実施主体に対して可能な限り多く設置するように求めていますが、収益事業(「もうけ」が出なければ意味がない事業)として運営している以上、採算度返しで会場を増やすことはできません。

大学入試センターは試験ごとの受検ニーズを予測するため、今後高校を通じてどの試験の受検を希望するかを調査し、その結果を実施主体に伝えるとしていますが、「既に情報が多い試験」や「学校が対策をしやすい試験」を中心に高校が選択するのは必定です。そうなると、受検生が実際に選べる試験の種類には少なからぬ制限が生じると言わざるをえません。

(3) 測定レベル

試験によって、測定できるCEFRレベルが異なります。大学入学共通テストの枠組みで活用されることを考えると、高校卒業時の到達目標となっているA2〜B1レベルをクリアすることがひとつの目途となるでしょう。さらに、加点方式をとる大学の場合はそれ以上のレベルが条件となります。異なる試験を受検することも可能ですが、現在の英語レベルから始めて目標となるレベルをクリアする上では、対策が共通する同種の試験を繰り返し受検して、徐々にレベルアップを図った方が効率的と思われます。

(4) 試験時間・問題数

試験によって、全体の試験時間や技能別の試験時間が異なります。時間の長い試験では、多くの設問やボリュームのある問題構成が出題されがちです。また技能別の時間配分からは、試験にける各技能の位置づけの違いも推測されます。

*複数の種類がある試験については、時間は平均的な数値となっている。
R:リーディング L:リスニング W:ライティング S:スピーキング
R&W:筆記試験(リーディングとライティングを含む)

(5) 使用英語・英文

各試験は、それぞれの目的に沿って作成されており、そこで扱われる英語(語彙や表現)や英文にも違いがあります。たとえば、日常的なコミュニケ―ション能力を測るTOEFLでは日常よく使われる会話や文章が中心となり、逆に英語による大学教育を前提とするTEAPではアカデミックな語彙や内容、学習場面で必要となる表現力などが取り上げられます。

また、多くの外部試験がアメリカ英語中心であるのに対して、イギリス連邦に軸足を置いたIELTSではイギリス英語が中心となります。(語彙や発音に違いがあります)日本ではおなじみとなっているTOEICはもともとビジネスのための英語力を測る目的で作られた試験ですので、学校英語とは少し異なるテーマを扱うことがあります。目標レベルをクリアすることが当面の課題とはいえ、外部試験を受検する目的が大学入試のみなのか、その後も見据えたもの(例えば、大学入学後の学習や留学、大学卒業後の就職など)なのかによっても、試験の選び方は変わってきます。

また受験準備のことを考えるならば、日頃勉強している英語(学校の授業や大学入試のための英語)と異なる性格の英語も勉強しなければならないのは、大きな負担になるでしょう。

(6) PBT v.s. CBT

対象となる試験には、PBT(Paper Based Test:紙の問題用紙で行われる試験)と CBT(Computer Based Test:コンピューター画面に問題を映して行う試験)の違いもあります。この違いは試験の種類によって違う場合もあれば、同じ試験種類の中でもPBTと CBTの両方が用意されている場合もあります。さらに、PBTと CBTの両方が用意されている場合でも試験問題が同一の場合と異なる場合もあります。

CBTでは、すべての試験をコンピューターで実施します。問題は画面に映し出され(リスニングはイヤホンを利用)、受検者は一定時間内に回答しなければなりません。時間を過ぎると回答していなくても次の問題に移ってしまいます。当然、1回目に回答できなかった問題を後でもう一度考えることもできません。また、回答はすべてキーボード(スピーキングについては、録音)で行いますので、キーボードの扱いにも慣れておかなければなりません。

また、一部の試験はiBTという形式で実施されます。これはCBT同様コンピューターを用いたテストですが、出題や回答データがインターネットを介して行われるもので、internet Based Testの略です。採点期間が短いこと以外は基本的にはCBTと変わりありません。

(7)対策強化ポイント

ここまで、各試験の主な特徴についてご説明してきました。多くの試験が選択肢としてある半面、どのような観点・条件から選ぶのかは単純には決められません。また、「何を選ぶか」と同様に大切なことは「どう準備するか」です。4技能が求められる背景には、4技能間で現在の英語力に差があるという事実があるからです。

上図は、文科省が実施した2017年度の「英語力調査」の結果から見た高3生の技能別英語力の現状です。高校卒業時の目標となっているCEFR A2〜B1レベル以上をクリアできた割合です。RやLでも到達率は40%弱にとどまっていますが、WやSについてはさらに低い到達率となっています。ただしここで注意しなければならないのは、WやSが低いのはそれぞれの技能だけが低いからというよりも、WやSは4技能を統合した英語力が必要だからと考えるべきです。つまり、4技能すべてについてレベルアップしなければならないのが現実なのです。

これを逆に言うと、高校生の4技能の現状が上記のとおりであるならば、目標となっているCEFR A2〜B1レベル以上をクリアすると大きなアドバンテージにできる可能性が高いとも考えられます。そのためには中学校段階から(遅くとも高1から)、目標を高く掲げて意識的な取り組みをすることが大切です。中・高校での英語教育を強化するといっても、ライティングやスピーキング力を高めるためには個別の対応が必要であり、1クラス40名前後の集団指導では、あまり多くのことは望めないでしょう。

「学校でできること」と「自分の責任でやらなければならないこと」を明確に区別して、両者を効率的に組み合わせる柔軟な対策が有効ではないでしょうか。

(完)

(本記事は、SAPIX YOZEMI GROUP発行『大学入学共通テストA to Z』掲載の記事を一部加筆・修正したものです。)

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