第2回に引き続き、試行調査結果の分析から、どのような変化が考えられるかについて見ていきます。
正答率情報にもとづく分析(続き)
④ CEFRレベルとの関係
CEFRレベルで設問数の割合をみると、「リーディング」は①で示した正答率別設問数の割合に類似していますが、「リスニング」についてはB1レベルの設問割合が小さいBバージョンの方が、得点率が低くなっています。(下図)
「リスニング」は読み上げ回数が2回で、全体の設問数が20問のAバージョンと、一部読み上げ回数が1回で、全体の設問数が30問のBバージョンの2種類あり、それぞれ別々の受験者で実施されました。つまり、試験の難易度は基本的にはCEFRレベルに準じた正答率の分布になるものの、その他の条件(設問数や読み上げ回数)によっても、正答率は変わってくることを示しています。
これは「CEFRレベルごとの小問正答率の割合(リスニング)」(下図)にもあるように、AバージョンではCEFR-A1とA2レベルでは正答率に大きな差が見られないのに対して、BバージョンではA1からB1へと段階が上がるほど正答率が低下していることからもわかります。(読み上げ回数の影響については、次項を参照)
⑤ 「リスニング」の読み上げ回数の影響
「リスニング」については、現状スクリプトの読み上げは2回が原則となっていますが、今回の試行調査ではこれまで同様に2回読み上げる問題(Aバージョン)以外に、設問数が多く、かつ読み上げ回数が一部1回のみであった別問題(Bバージョン)も実施されました。
下図は、A・B両バージョンでともに出題された設問に限って、読み上げ回数が同じ(2回)だった設問とBバージョンで1回のみだった設問に分類して、読み上げ回数の影響を見たものです。
A・Bともに2回だった設問については両者の正答率に大きな差はありませんが(「同条件」)、読み上げ回数が違った設問については明らかに正答率に違いが生じています。
このように、読み上げ回数は正答率に影響を及ぼすことがわかります。もっとも、日常の場面で同じことを2回繰り返して話すことは滅多にないわけで、「実用性」や「日常性」を重視する立場から言えば、1回読みが基本となるのは自然なことではないでしょうか。
⑥ その他
今回の試行調査では従来なかった出題形式として「あてはまるものすべてを答える」という形式が採用されました。他の科目でも同様の結果が見られましたが、この形式の正答率はおおむね低くなっています。(「リーディング」第2問A問4:13.6%、第5問B問2:6.2%、「リスニング」第6問B問19(A問題):46.2%問29(B問題):39.7%)
これは、従来のセンター試験では可能だった「より正しそうな選択肢を選ぶ」という消去法的な解答方法がこの問題には通用せず、「確実にわかっている」ことが正解の条件となるためです。
今回の結果をどう解釈するか?
第1回でもお話したように、試行調査は新しい試験の課題や実施上の問題点などを探るための「テスト(試行)」です。したがって、今回の試行の結果が当初期待していた結果と異なる点については、本番に向けて今後改良が加えられます。今回と同じ形式、難易度の試験が本番でも行われるわけではありませんので、今回の変化をそのまま受け止める必要はありません。
ただし、新しい試験の基本的な理念は継続します。つまり、「実用性」「日常性」「情報処理能力」などは本番でも重視されますので、その方向に沿った準備が必要となります。
なお、「リスニング」については、今後は1回読みと2回読みが混在した問題(Bバージョン)で検討することが明らかとなっています。資格試験は「一定の力の有無」を判定するために行われるものですが、選抜試験は受験者の「力の差」を測り、順位づけるために行われるものです。共通テストは大学入学者を「選抜」するための試験ですから、「力の差」がより明確に測れる問題の方がよいという判断と思われます。
今回明らかとなった課題については、2018年11月に実施される予定の第2回試行調査で再度テストされます。今回の問題からどのような変化が見られるかで、2020年度本番試験の様子がさらに明確になるでしょう。