晴山陽一 『英単語速習術―この1000単語で英文が読める 』(ちくま新書)、『Jアプローチ 「4技能時代」を先取りする凄い英語学習法 』(IBCパブリッシング)などの英語関連著作を100冊以上出版しているベストセラー作家。早稲田大学文学部哲学科卒。出版社勤務を経て47歳で独立後、18年間で138冊もの著書を出版。10年連続10万部発行、総発行部数160万部、2015年1~2月Kindle売れ筋ランキング総合1位などを達成。一般社団法人使える英語普及協会代表理事、一般社団法人実践英語振興協会代表理事。
長年、英語学習書を執筆されてきた晴山先生に、実践的な英語習得の重要性とその方法について伺った。
目次
-日本で「実践的な英語学習」、つまり「4技能での英語学習」が広まってきていることに関して、どのようにお考えですか?
もともと日本ではリーディングだけの1技能の英語教育がなされていて、文法を覚えていれば点数を取れるという実態がありました。後に2技能になった経緯がありますが、ほとんどがリーディング中心で、少しだけリスニングが加えられた程度です。これはテストのリーディングとリスニングの点数配分を見れば明らかです。言い訳程度にやっている2技能だったのです。その後に4技能の波が来ました。もちろん、1技能の時代に比べたら、4技能への移行は素晴らしいことです。
ただし、4技能といっても、勉強する時間や労力が4等分になるわけではないと思います。ですから、学校の授業でも、ただ単に授業時間を4等分にしてはいけないのです。それは本当の意味で4技能を身に付ける方法ではないからです。私はスピーキング中心であるべきだと思います。スピーキングが80%ぐらいですね。これはあくまでも、英語を話せるようになることが第一目標ではなく、4技能すべての能力を上げるためにスピーキング中心の英語学習にするためです。そうすることで、たとえば、文法ばかりやってきた人よりも文法が出来るようになります。スピーキング中心の方がとても効率が良いんです。ただし、これは文法を軽視してよいという意味ではありません。
言語習得には色々な理論がありますが、最近のある理論では、受動的な学習(リーディング、リスニング)は子供には良いけれど、大人には向いていない、というものがあります。一般的には「子供はたくさん話した方が良い。大人になったらたくさん読んで知識を蓄え方が良い」が常識とされていますけれど、実は逆なんですね。子供の時は受動的学習、大人になったら能動的学習に移ると良いのです。まずはインプットしてから、アウトプットすることが大切です。
もう一つ、コミュニケーションに関しての観点でメラビアンの法則というものがあります。この理論を参考にすると、コミュニケーションにおいて、言語が果たす役割は、10%ほどしかないといわれています。残りの90%は表情やジェスチャーなどが関与するというわけです。そういう意味では、4技能の言語能力以外の側面も、とても大切なんです。つまり、英語が苦手な人も、そこまで気負って英語に取り掛かる必要はないのです。まだ90%も英語以外で勝負するところが残っているのです。
なので、「実践的な英語」という意味では、今まで英語が嫌いだと思っていた人たちに、2020年に向けて「バリアフリーの英語学習」を届けてあげたいんです。4技能と言いますけれど、発音やリズムや語彙、文法とかあるので、7技能にも8技能にもなってしまうんです。だから、最終的に自分に必要な英語を身に付けるための、「バリアフリーの英語学習」が必要です。とりあえずコミュニケーションを試みることが大切で、最初は細かいところは間違えても良いのです。通じれば良い。いま、そのための事業を興す準備をしています。
-大学の入試改革が行われていますが、これから日本の英語教育はどのように変わっていくのでしょうか?
この波の素晴らしいところは、小・中・高・大の接合点が生まれた点です。今までは小・中・高・大の連携がなく、英語学習に関しての流れが無かったのです。そもそも、中学と高校で教科書を作っている部局が違うので、たくさんの矛盾がありました。いちばん大きなところで言えば、中学3年から高校1年に上がるときに、学問的に1年以上のギャップがあるにもかかわらず、それに誰も気が付かなかったんです。橋渡しがない状態ですね。中学から高校に進むといきなり授業が難しくなったりしていました。それはずっと昔から変わっていません。ですが、この4技能の流れで、その小・中・高・大の連携の無さが画期的に改善されたと思います。
-英語を好きでない方に英語を教える時に難しいところはどのようなことでしょうか?
まずは、英語初級者でも、とんでもなく難しいことをやっているということを再認識しなければいけません。日本語と英語の言語的距離を無視して、先生が生徒にとって難しいことを、あたかも当たり前かのように教えていることがよくあります。なので、最初に英語を勉強する人たちはとても混乱していると思います。最初でくじけて英語から離れてしまっている人も少なくないと思います。英語に入る最初のステップを「バリアフリー」にしなければいけません。まずは初期段階で英語に対する壁を取り除いてあげることです。先生たちは、そもそもの日本語と英語の言語としての違いも考えなければいけませんし、日本人に合った方法で教えていくことが必要です。だから教科書に関しても、日本人に合った作り方をしなければいけないと思います。
学校のオーラルコミュニケーションの授業でも、まだ英語に対する壁がたくさんあると思います。やはり「自信が持てていないこと」が成長を遅らせています。発音や抑揚の違いなど、紙一枚ぐらいの小さな差を上手に改善することが、英語を話す上で自信につながるので、そこのところを先生たちが教えていけたらなと思います。
-日本人は英語をアウトプットすることが苦手だと言われます。ライティングとスピーキングの学習に対するご意見をお聞かせください。
ライティングに関しては、話したいことを書けば良いと思います。いきなり英語を話すことはできないので、自分の中にあるものを英語で書いてみれば、自分に必要な英語が身に付いていくと思います。その後に自分の言いたいことが話せるようになっていきます。
また、ライティングとスピーキングの相互作用はあると思います。ライティングもスピーキングも勉強して、総合的な英語能力を上げていく中で、「自分はこれが得意なんだ」というものを探して欲しいです。とことん喋る人がいたり、とことん書く人がいても良いと思います。
ただし、ビジネス上のライティングや、論文執筆のライティングは特殊な領域です。ライティングと言って、十把ひとからげにしない視点も重要だと思います。
-日本人の英語力向上のために多くのプロジェクトを行われている晴山先生から、英語学習者へアドバイスをお願いします。
まずは、日本語レベルで表現力を高めてみてください。その中で、英語に出来るものを英語にしてみることです。結果的に、自分の言いたいこと、表現したいことを英語にすることが出来るようになります。私の場合でいえば、ふだん出版塾で話している内容(執筆の奥義のようなもの)を英語化して、世界に広めようと思っています。目的に合った学習をしなければ、辛くなってしまいます。まずどうしても伝えたい内容を作り、それをいかに英語化し、いかに伝わりやすくするかという道筋が、いちばん無駄のないルートだと思います。日常会話ばかりやっていても、グローバルな発信者にはなれません。
ある脳科学者が言ったことで、とても感動した言葉があります。それは、「脳には様々な機能があるけれど、その中でも一番高貴な働きは’粘り強さ’です」という言葉です。「継続が命」なんて言葉もあります。やはり「粘り強さ」が学習においてはキーワードだと思います。
また、「学習者」である前に「学習管理者」でなければいけません。自分が今どのレベルにいて、何が出来るのか、何が足りないのか、何が目標なのか、そしてその目標を達成するためには何をしなければいけないのかを明確にして、自己管理をしなければいけません。いわば「受動的学習」から「能動的学習」への転換です。「学習をやらされる側」から、「学習をやらせる側」に、自分で役割をシフトしてしまうのです。それが出来て初めて成長につながります。自分の頭の中にあるものを「視覚化」していくことで初めて自己管理することが出来ます。
先ほど言った「粘り強さ」を精神論だと考える人が多いかもしれませんが、そうではありません。こういった自己管理をしっかりやっていくという意味での「粘り強さ」なのです。たとえば、頭の中にあるものや行ったことを「視覚化」したり、「時間の空間化」を行ったりすることです。「時間の空間化」とは、参考書に付箋を付けて、全部目を通したら5時間かかるものを、(視覚的に)いつでも5分で見通せる状態にする、などです。とにかく無駄をなくしていけるように、徹底的に意識して学習して欲しいです。