「英語はもともと4技能!」NHKラジオ基礎英語2講師阿野幸一教授

文教大学国際学部国際理解学科で教授を務め、NHK「基礎英語2」でも担当講師を務めている阿野幸一先生。「日本の英語教育を変えたい」という思いを胸に、大学教授とラジオ講師で多忙を極めながらも、日本中で教員研修を行っています。
今回はそんな阿野先生にお時間をいただき、4技能試験入試に対するお考えと、英語を学ぶ方への熱いメッセージをいただきました。

阿野幸一先生

阿野幸一先生

日本の英語教育は正しく動き始めた

英語4技能試験の大学入試への導入、英語での授業の実施など、新しい施策が始まっています。日本の英語教育について阿野先生の考えを伺いました。

「私は、文部科学省の行っていることは間違いではないと思います。一番問題なのは、政策と現場でのギャップです。(学校の先生たちは)政策を頭では理解していて、その政策が良いこと、英語を使わなければいけないということもわかっています。しかし、どのように授業を展開すればいいのかは、わかっていません。文科省の政策を走らせるうえで、具体的にどうしたらいいのかということを事例とともに提案できればと思っています」(阿野先生)

「私は英語を読み、書き、話し、聞く時間は多ければ多いほど英語力がつくと考えています。そのため、4技能試験の導入というのはストレートに先生たちにこれらの重要性を伝えてくれると思います」

阿野先生は高校教諭をされているときに、大学入試対策問題を授業内で毎回行うクラスの生徒と、英語でディスカッションやディベートを行うクラスの生徒との間でセンター試験の点数を比較したことがあるそうです。その結果は、実際に英語を使う後者のクラスの成績が明らかに良かったそうです。

「聞いたものについて話したり、書いたりする授業を行っていく統合型のクラスのほうが確実に力がつきます。英語はもともと4技能のものなので、様々な形で英語に触れる時間を増やしていくことが大切です。4技能対策だからと言って、各技能ごとに授業を行っていてはあまり効果は期待できません」

問題演習だけでは点数は伸びない

「私の担当する学生からの質問でよくあるものに、『どうしたらTOEICの点数があがりますか?』というものがあります。この質問をしてくる学生の多くは【目指せTOEIC730点】といった問題集を持っています。ここで私がいつも学生に伝えているのは、『まずその問題集をやめなさい』です。問題集のみの練習であがるのはせいぜい50点程度です。TOEICを受験する前に一番大切なのは、もともとの英語体力をつけることです。

試験を受ける前に、まずたくさんの文章を読んで、音声を聞いて、音読をして、ということをしてから問題演習をすることが大切だと伝えています。TOEFLでも英検でもTOEICでもきちんとした英語力さえあれば、どんな試験にも対応できるのです。試験の傾向対策をするのは個々の学生が取り組むべきことで、先生は4技能統合型の授業を行い、学生の英語体力というものを伸ばすような授業にするようにしてほしいと思います」

英語の授業は試験対策ではなく、英語体力をつけるためのものだと阿野先生はおっしゃっていました。もともとの英語体力がないことには問題演習は意味をなさない、という意見は多くの方に耳が痛い話なのではないでしょうか。どんな試験でも対応できるだけの英語力をきちんと身に付けていきたいですね。

場面での使い方を教える

「文法を教えている先生たちは、実際の会話で起きる”場面”に対応しない英語を教えていることがほとんどです。例えば、現在進行形を教えているとき、”What are you doing?”という英文に対して、”I’m playing the piano.”という英文は正解とします。しかし、実際の会話でこのやりとりが行われることはほぼ間違いなくありません。目の前のピアノを弾いている人に何をしているのか尋ねる人はいませんよね。実際に使う”場面”を想定して、英語を教えることができていないのです。

英語を英語で教えるということには、”場面”での使い方を覚えることができる点で非常に効果的です。ふざけて遊んでいる少年に”What are you doing?”と聞いて、正しい返答は”I’m playing.”ではないですよね。ここで正しい返答は”I’m sorry.”です。このように実際の”場面”で使用することを考えて授業を行えば、英語の授業はより実用的で、楽しいものになります。先生方にはこういう視点で授業を行って欲しいですね」

実際に海外に行ったことのある多くの人が、学生時代に学んだ英語とのギャップに混乱した経験があるかと思います。阿野先生のおっしゃる”場面”で英語の使い方を学んでいくという手法は非常に実用的で、こういう授業を学生時代に受けてみたかったと感じました。

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英語はカメラと同じ

「日常会話の90%以上は、約3,000語の単語で成立しています。それ以外の単語は、1年間毎日英語を使っていても1度聞くかどうかです。そう考えれば、その3,000語をどのように使っていくかを考えるほうが、新しい単語を覚えるより大切だと思います。英語を使いたかったのに使えなかったところを、学んでいくという姿勢が大切です。

英語とカメラって、ある意味一緒だと思うんですよね。新しいカメラを買って、説明書をすべて読んでから使い始める人っていないですよね。説明書をすべて読んでからカメラを使うというのは、単語と文法を全部覚えてから英語を使い始めようというのと同じなんですね。

『とりあえず、写真を撮ってみよう。うまく撮れないな、どうしたらいいんだろう』と説明書を読むわけです。英語も一緒でいいと思うんですよね。うまくいかなかった時に辞書や文法書に取り掛かればいいわけです。できるようになったら使うといった消極的な姿勢は、非常にもったいないと思います。たとえ、外国の方と話す機会は多くなくても英語の練習はできます」

ここで紹介していただいた学習方法は「リハーサル」というものです。自分が考えているものをすべて英語にしてみるそうです。例えば、道を歩きながら”There is a new house over there. Whose house is that?”と、英語で考えてみます。電車の改札を通るときにも”Where is my Suica? I have to touch….”「改札って英語でなんて言うんだろう?」 と考えていく練習だそうです。

日本の英語教育を変えるために、日本中を飛び回る阿野先生からは本当にさまざまなお話を聞くことができました。話を聞いているだけで、英語を学びたくなる、そんな方でした。

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