連載:今さら聞けない、英語4技能って何?
第1回: 日本語が国際語にならなかったたった1つの理由
連載第一回目は、そもそもなぜ日本人に英語が必要なのかを紐解きます。日本人の英語力が他の国に比べて低い、という話をよく耳にします。ある調査(*1)によると、2016年時点で日本人の英語力は調査対象の72か国中35位であり、前年の調査から5位ダウンして、アジアの中で最大の降下となったそうです。では、どうして日本人の英語力は低いのでしょうか。その理由として、日本語が他の国の言葉にくらべて特殊だからだという見方があります。
*1 イー・エフ・エデュケーション・ファースト・ジャパン(EF)が2016年11月17日に発表した、世界最大の国別英語能力指数レポート「EF EPI 2016」による。
世界では様々な言葉が使われています。ただそのほとんどは、その言葉がどのようにできてきたかを知らべていくと、いくつかの系統(言語系統や語族といいます)に分類することができます。同じ系統の言葉であれば、一見すると別の言葉のようでも同じ語源の単語がたくさんあったり、言葉の使い方の規則である文法に共通点があったりします。このように「親類関係」にある言葉同士ならば、新しい言葉を覚えるのも随分楽になります。
よく知られているのは、英語とフランス語やドイツ語は同じ系統で、これらの言葉を使っている国では複数の言葉を使い分けることができる人(バイリンガルやマルチリンガルと呼ばれます)が多いという事実です。それに対して、日本語は他の言葉との系統関係が不明な「孤立した言語」と分類されることが多い(*2)のですが、まったく独自の言語というわけでもなく、近くの国の言語(例えば、中国語や朝鮮語など)からいろいろな影響を受けています。
たとえば、日本語の表記文字が中国から伝来した漢字から始まることは、よく知られているとおりです。
*2 現在は、日本語は琉球語と同系統であるとして「日本語族」に分類されることが多い。それでも同族言語が極めて少ない言葉に違いはない。
日本では漢字が伝来する以前から話し言葉はありましたが、それを書き写す文字をもっていませんでした。つまり、それまでのコミュニケーションはもっぱら口伝えだったのです。そのような日本に伝来した漢字は、意味を表す文字(表意文字)として使かわれただけでなく、本来その文字が持っていた意味を棚上げにして発音だけを借りるという方法で、元々あった日本語を表記する使用法(表音文字)もできました。
そこから、漢字の音(中国語の発音に沿った発音で読む読み方)や訓(その漢字と同じ意味の日本語の発音をあてて読む読み方)を用いた日本独自の表記法である「万葉仮名」が生まれ、さらに漢字の草体から「平仮名」が、漢字の偏(へん)や旁(つくり)などの一部を取り出して「片仮名」が考案されました(*3)。
*3 「仮名」には、漢字を「真名(まな)」=公式文書などで使用される正式な文字とするのに対して、「仮名(かな)」=主に日常的な必要で用いられる便宜的な文字という意味合いがあり、主に女性が使うものとされた。なお、この日本独特の女性用文字があったからこそ、世界でも最も古い長編小説のひとつといわれる「源氏物語」が女性の手で書かれたという説もある。
日本語は、主に日本国内や国外にいる日本人によって使用されていますが、現在少なくとも1億2千万人前後が日常的に使っている言葉で、この使用人口の多さは世界の中でも上位10位以内に入ります。また、インターネットで日本語を使っている人の数も、英語、中国語、スペイン語、アラビア語、ポルトガル語に次いで6番目に多い言葉です(*4)。
*4 2016年6月現在、INTERNET WORLD USERS BY LANGUAGE、Miniwatts Marketing Groupによる。
このように見てくると、「孤立した言語」といわれる日本語も使用されている量では決して「マイナーな言語」とは言えません。それでも日本語が「国際語」になりえないのは、他の言語との共通性が少なく、使用するのが基本的に日本人の間、そしてほぼ日本国内だけに限られているからです。
このような事情から、グローバル化が進む今日では日本語だけで事を済ますことがどうしても難しくなっていることが、英語重視の背景となっています。